残業削減に「魔法の杖」は無い 働き方改革がうまくいかないこれだけの理由:「残業学」教授が解き明かす(3/4 ページ)
今の働き方改革は果たして残業削減に効いているのか。欠点と真に効く対策について大規模調査を行った立教大教授に聞いた。
導入直後の「死の谷」を越えよ
――さらに乗り越えるべき壁として挙げられていたのが、施策導入直後に目に見える効果が上がらない「死の谷」という期間です。施策の効果の実感は1カ月で最も薄まり、その後上昇するという調査結果は意外でした。
中原: これはもっと注目されるべき点です。多くの長時間労働の是正策は、始まってしばらくすると「不満感」が一時的に高まります。そこで止めてしまうケースがほとんどです。とある建設業界の知人に聞いたのですが、その人の職場でも働き方改革が導入されたそうです。建設業界は特に人手不足ですよね。最初は文句も上がり「顧客をどうするのか」などとハレーションも起きましたが、2カ月たつと午後6〜7時には帰宅するようになったそうです。
ただ、こうした「死の谷」の期間に、職場では地獄を見ることになります。これは痛みを伴う学び直し、「学習棄却」と呼ばれるものです。いわば新たなルーティーンを学ぶ創造プロセスと言えます。一時期は大変になりますが、いったん施策が回りだしたら職場は変わるはずです。
――もともと残業問題は個人、職場、組織、国と複合的な要因が合わさったものだと本書では強調されてきました。ただ、その対応策として挙げられているものはどれもかなり個別的で具体的ですね。
中原: Web上での本書への言説を見ると、「紋切り型だ」とか「今までのノウハウの寄せ集め」といった批判もありました。そうだろうなと思う反面、「皆さん、どこかで長時間労働是正を行ってくれる『魔法の杖』を求めていませんか」とも思うのです。魔法の杖を使えば残業がすぐ無くなる、といったような。残念ながら、そうした「魔法の杖」はありません。
でも私たちは、「自分たちの日々の仕事のやり方を見直して」としか言えないのです。紋切り型でつまらなくても、地道にやるしかありません。時間がかかる話なのです。地に足をつけて取り組むことが必要です。
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