倒産寸前の町工場がタオルで大逆転! ヒットの秘密は「糸」と「伝え方」:累計680万枚(3/5 ページ)
倒産寸前の状態から大ヒット商品を生み出した町工場がある。岐阜県にある浅野撚糸だ。累計680万枚を販売したタオル「エアーかおる」はどのように生まれたのか。V字回復を成し遂げた商品開発の秘密に迫った。
タオルの生地は、縦糸と横糸で織った下地に、ループ状に糸を織り込む「パイル地」のものが一般的。浅野撚糸としては、下地となる縦糸と横糸にスーパーゼロを使ってもらうつもりでいた。しかし、おぼろタオルは“間違えて”、パイル部分に新しい糸を使っていた。
「すごいタオルができました!」
そう言われて見せられたのは、驚くほどふんわりとした柔らかいタオルだった。「タオルメーカーにとっては、パイルを工夫するのが自然な発想だったのでしょう。行き違いによって、偶然、柔らかいタオルができたのです」(河合氏)
「これはすごい。これなら商品になる!」と盛り上がった。ところが、いざ量産化しようとすると、いくつもの壁が立ちはだかった。
その一つが、撚りをかけた糸にスチームアイロンをかける工程にあった。なぜその工程があるかというと、撚りが戻って糸が縮れることを防ぐため、蒸気を当てて真っすぐにする必要があるからだ。
だが、スーパーゼロをスチームアイロンの機械に入れると、織り込まれている水溶性の糸が蒸気によって溶けてしまい、糸と糸がくっついてしまうのだ。その状態のままタオルを織ろうとすると、糸が切れてしまう。
糸が溶けないように、蒸気を当てる長さや温度などの調整を繰り返した。問題解決の糸口となったのは「機械への入れ方」だ。従来は糸を台車に載せて、そのままスチームアイロンに入れて蒸気を当てていた。だから蒸気が強く当たりすぎていたのだ。「段ボール箱に糸を入れて、箱に小さな穴を開けてから機械に入れてみると、糸が溶けだすのを防ぐことができました。社外の人からは『アナログなんですね』と驚かれます」(河合氏)
そのような問題を一つ一つ解決して、タオル「エアーかおる」の発売にまでこぎつけたのは07年。スーパーゼロの開発から2年が経過していた。
このころ、会社の業績はまさにどん底。会計士からは「3年後につぶれます」と宣告された。従業員を3分の1に、下請け先を半分に減らすリストラもやった。まさに背水の陣だった。
関連記事
- 衰退している熱海になぜ観光客が増えているのか
いま熱海に観光客が戻り始めている。一時はピーク時の半数まで観光客数が減少していたという。行政としてどのような取り組みをしてきたのか、熱海市の齊藤栄市長に話を聞いた。 - どん底から復活したメガネスーパーは、なぜ「安売り」と決別できたのか
わずか数年前、倒産寸前まで追い詰められていたメガネスーパーの「V字回復」が注目を浴びている。どのようにどん底からはい上がったのか。失敗と復活の背景には、眼鏡業界のビジネスモデルの変化を踏まえた戦略の転換があった。詳しく解説する。 - 低迷していた「カルピス」が、右肩上がりの再成長を遂げた理由
2019年に100周年を迎える「カルピス」がいま、再び成長している。販売量は横ばいで推移していたのに、10年ほど前から右肩上がりに伸びているのだ。変わらない味のロングセラーブランドが再成長できたのはなぜだろうか。 - シニアが変えた「奇跡の町工場」 加藤製作所の働き方改革
日本一の高齢者雇用企業と呼ばれ、60歳以上の新規採用を推進し、メディア掲載や会社見学が絶えない会社が岐阜県中津川市にある。高齢者を生かして会社全体の働き方を変え、他社にも同様の取り組みを広げた「奇跡の町工場」を巡る物語。 - これぞ町工場の底力 廃業の危機を救った「おじいちゃんのノート」とは
あることをきっかけに、たった数カ月で創業以来最高の売り上げを出した中村印刷所。一体何があったのか。当時のことや、これからのことを社長の中村さんから詳しく聞いた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.