観光列車に本気出すJR北海道の“到達点”はどこか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)
北海道に新たな観光列車時代が到来する。JR北海道は、JR東日本や東急電鉄と協力して道内に観光列車を走らせると発表した。常識を覆す試みで運行を実現することになりそうだ。海外の鉄道会社も含めたオープンアクセスの第一歩になるかもしれない。
中国企業も参入? オープンアクセスの第一歩
19年夏と20年夏で、JR北海道は「車両を借りる方法」「運行だけを担当する方法」の2つの実験ができる。両方のノウハウを吸収すれば、自前で観光列車を運行する日が来るかもしれない。しかし、それはかなり遠い日になるだろう。JR北海道は事実上、国とJR東日本の監視下にある。経営改善が整うまで、観光列車の新製を許してくれそうな雰囲気ではない。
しかし、東急電鉄との協業で得る「観光列車の上下分離方式」は、停滞するJR北海道にとって一条の光になるはずだ。なぜなら、東急電鉄以外にも北海道で観光列車を走らせたい会社はありそうだから。日本旅行は北海道が実施した「北海道観光列車モニターツアー」事業を受託し、実績を残している。JTBは平成筑豊鉄道で「観光列車の上下分離方式」を実践中だ。かつて東急電鉄と観光開発競争を続けた西武鉄道だって、もうかるならJR北海道で「旅するレストラン 52席の至福」を走らせたいかもしれない。
しかし、私は意外な方向から本命が登場しそうな気がする。それは中国だ。現在、北海道の観光施設を買いまくっている中国が、自前の観光列車を持ちたいと思っても不思議ではない。新千歳空港や旭川空港から北海道各地の中国資本リゾートへ専用列車を走らせる。豊富な資金を投入して、豪華列車を持ち込むかもしれない。もちろん障害も大きいだろう。日本と中国は高速鉄道に関してライバルであり因縁もある。そうでなくても日本は鉄道部門において海外の製品、技術の導入を好まない。しかし、JR北海道を再生させる気があるなら、あらゆる資本に対して受け入れたほうがいい。
海外の鉄道事情に詳しい方なら、そろそろお気付きかもしれない。東急電鉄がJR北海道で観光列車を運行し、これに続く会社があるとしたら、それは欧州で見られる「オープンアクセス」の始まりだ。高速道路で複数のバス会社が運行するように、大空へ世界の旅客機が飛来するように、鉄道も複数の会社が列車を走らせる。欧州各国は線路をつなぎ、国鉄だけではなく、民間の鉄道会社も国境をまたいで列車を運行する。夜行列車として、オーストリア連邦鉄道の夜行列車「ナイトジェット」が欧州各国にネットワークを持っている。鉄道の輸送機能とサービスの分離、自由化が始まっている。
JR北海道においてもオープンアクセスが始まるかもしれない。それは観光列車に限らない。JR北海道の線路を使って、自治体が運営する通学列車が走るというパターンもアリだ。むしろ、JR北海道は今まで以上に安全投資に集中し、オープンアクセスによる線路使用料収入を確実に得ていく方向へ転換するべきだ。それが国の意図かもしれない。
「ナイトジェット」はオーストリア鉄道が客車を保有し運行する夜行列車。ウィーン〜ローマ、ミュンヘン〜ミラノなど10路線がある。写真の機関車はドイツ鉄道、駅はスイスのチューリッヒ。まさに国際列車だ(写真はFlickerより。Nicky Boogaard氏)
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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