【第3話】社長のリーダーシップを取り付けよ!:「働き方改革」プロジェクトリーダーを命ず(1/2 ページ)
働き方改革のプロジェクトリーダーを任された日野下は、X製作所の経営企画部アドバイザーとしてお世話になっている外部コンサルタントの竹中に相談を持ち掛けた。すぐさま竹中は課題点を整理していった――。
昨晩の同期会では、やや堂々巡りの展開となった。
「働き方改革の『大義』と『ゴール』を明らかにすべきでは?」
「残業削減から先に進もうとすると、現場はどうしても守りに入る。リストラを想起してしまう」
「考えてみれば、誰も自分の仕事のやり方を変えたくはない」
「だからこそゴールを明示しないと」
といった発散系の討議が続いた。
日野下は、こちらが奥歯にものの挟まった言い方しかできないにもかかわらず、親身になってくれた同期たち感謝するとともに、「社長の期待に応えるには相当の巻き返しが必要だ」との念を新たにしていた。
金曜日の午後。日野下は会議室で、コンサルタントの竹中治子と向き合っていた。
竹中治子は、42歳、2児の母である。日系の総合コンサルティングファームで、IT、業務改革の経験を積んだプリンシパルである。小田社長とは旧知で、日野下も基幹システムの欧州展開プロジェクトで一緒に働いたことがあった。理知的で物静かだが、はっきりと言い切る芯の強さがあり、日野下は、初対面の時、「私、配慮はしますが遠慮はしませんよ」と言われたことを鮮明に覚えている。今は、経営企画部アドバイザーとして日野下を支援し、経営企画部の若いスタッフを教育している。
日野下: 「というわけで竹中さん、ようやく中期ビジョンが一段落したところなのにまたまた相談で申し訳ありませんが、経企として『働き方改革プロジェクト』の第2フェーズを仕切らなきゃならないんです。各部門の状況はお話しした通りで、このままでは社長の期待するような効果はでないでしょう。まあ、社長もそれが分かっているからこそ私が呼ばれたわけですが」
竹中: 「分かりました。第2フェーズは改革の根本に立ち返って、アプローチも、体制も見直さなければなりませんね。今日は、私たち経企としてのプロジェクト基本方針を討議して、社長とどんな話をすればいいか決めることがゴールでいいですか?」
「はい」。日野下が、「私たち経企」という竹中の言葉遣いに勇気付けられつつ頷く。
竹中: 「私の経験では、働き方改革つまりは業務改革のポイントは5つあります」
竹中がホワイトボードに箇条書きにしていく。
竹中: 「(1)はいいですよね? 小田社長はリーダーシップがありすぎるくらいの方なので心配はしていません。ただ、こないだ日野下さんがプロジェクトリーダーに任命された時、もう少し社長の思いを伺うべきだったと思います。それが、どの領域でどの程度の効果をいつまでに出すのか、出したいのか、それはなぜか、といった形で(2)や(3)につながっていきます。
(4)は言うのは簡単ですが、行うのは難しいです。直下型で推進するにしても実際に業務プロセスを検討するのは現場のメンバーです。彼らに、『ツール導入ではなく業務改革ですよ』と言い聞かせたところで響きません。客観的な指摘、世の中の常識、思い切った割り切り案、RPA(Robotic Process Automation)活用例などを具体的に示して検討をリードする存在が必要です」
竹中の説明が続く。
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