「本業と無関係」「10年かかる」 キャビア養殖に挑む電線メーカーの生き残り術:新事業を選ぶ“2つの条件”(5/5 ページ)
ケーブル・電線メーカーの金子コードは、本業から懸け離れた、事業化に10年かかる「キャビア養殖」に参入した。なぜ畑違いの新事業に挑むのか。その背景には、10年かけて育てた新事業に救われた経験があった。金子智樹社長に、新事業の考え方を聞いた。
「世界一おいしい」高級ブランドへ
キャビア養殖を始めた当時は、高級路線か、大量生産か、という方針さえ決まっていなかった。自ら育てたチョウザメから取れるキャビアがどんな味になるか分からず、方向性を決めるための情報も少なかったからだ。
17年2月、初めて取り出したキャビアを試食するときがやってきた。担当者は「できることは全てやった。おいしいはずです」と力を込める。金子社長が一口食べてみると、「おいしかった」。保存料を使用せず、熱処理もしないキャビアの味は濃厚でクリーミー。それまで食べてきたものとは全く違った。シェフやソムリエなどの専門家にも食べてもらうと、「世界一おいしい」という反応が返ってきた。
それで方向性が決まった。高級路線だ。高品質のおいしいキャビアを、日本を代表するホテルやレストランに卸す。そして、春野町にちなんで名付けた「ハルキャビア」のブランド価値を高めていく。
現在は約1万6000尾を養殖しており、今シーズン(18年11月〜19年3月)は約100キロのキャビアを生産できたという。23年ごろには生産量が増えてくる見込みだ。さらに、キャビアやチョウザメを化粧品やサプリメントに活用する商品開発も進めている。
金子コードのゼロワンの挑戦はキャビア養殖だけにとどまらない。形状記憶合金を使った人工筋肉の開発にも着手している。金子社長は「100歳の人も自分で歩ける世界をつくりたい」と意気込む。
「新事業に取り組むことについて、よく『勇気あるね』と言われるのですが、今の時代、リスクを恐れて何もしないことのほうが危険だと考えています。全社員が挑戦を恐れず、積極的に取り組んでいれば、たとえ危機が訪れても手を打てる会社になれます」と金子社長は強調する。
時代の変化、経済情勢の変化による危機を避けることはできないのかもしれない。だが、いざというときに乗り越えられる力を付けられるかどうかは、小さな一歩にかかっている。
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