「本業と無関係」「10年かかる」 キャビア養殖に挑む電線メーカーの生き残り術:新事業を選ぶ“2つの条件”(4/5 ページ)
ケーブル・電線メーカーの金子コードは、本業から懸け離れた、事業化に10年かかる「キャビア養殖」に参入した。なぜ畑違いの新事業に挑むのか。その背景には、10年かけて育てた新事業に救われた経験があった。金子智樹社長に、新事業の考え方を聞いた。
チョウザメの稚魚1000尾、1週間で全滅
新事業立ち上げを命じられた担当者は、経済成長が著しい東南アジアを中心に海外視察を繰り返し、さまざまなアイデアや商品を持ち帰ってきた。なかにはカテーテル関連のアイデアもあったが、「ゼロワンにならない」と却下した。
そして数カ月後、将来的にマーケットがなくならない「食品」事業に絞り込んだ。畑を借りて野菜を育ててみたり、ウナギの養殖を検討したり、ワイナリーの調査をしたりしたが、どれも難しく、勝ち目がない。そんな状況が続いていたあるとき、金子社長と担当者の会話の中で偶然出てきたのが「キャビア」だった。
「これです! やっと見つけました。やらせてください」。「キャビア」というキーワードに心が引かれた担当者は1週間で資料を集め、金子社長にそう宣言した。日本で流通しているキャビアはほとんど輸入。だから、長期保存のために塩を多く使い、保存料を入れ、殺菌処理をしている。国産で提供できれば、手を加える必要がない。「国産の生のキャビア」を売りにすれば、ビジネスになるのではないか。また、チョウザメの稚魚を育てるところから始めて、事業を軌道に乗せるのに10年はかかる。条件にぴったりだった。
しかし、先行事例も多くはない事業に着手するのはもちろん簡単なことではない。当初は方向性も見えず、失敗を繰り返した。まずチョウザメの稚魚を1000尾買ったが、わずか1週間で全滅してしまった。
ショックだったが、嘆いていても仕方がない。担当者は、全国の水産業者に片っ端から電話をかけて、うまくいかない理由を探った。ほとんど相手にされなかったが、一人だけ親身になってくれる養殖の専門家がいた。その専門家は後に金子コードに入社し、事業を担う存在になっている。その人の助けによって分かったのは、「きれいな水」の大切さだ。
「日本一きれいな水がある場所」を養殖の拠点にしようと考え、目を付けたのが、金子コードの工場もある浜松市。市内の春野町には、天竜川上流のきれいな水が豊富にある。14年12月、そこに養殖場を構えた。チョウザメが暮らすいけすの水は源泉かけ流し。中の水は1日5回入れ替わる。ぜいたくにきれいな水を使える環境だった。
こうして、ようやく新事業が前へと進み出した。
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