“冬の時代”から始まった平成アニメ、いかに2兆円産業に飛躍したか:ジャーナリスト数土直志 激動のアニメビジネスを斬る(3/5 ページ)
アニメ・映像ジャーナリストの数土氏が平成アニメビジネス史を総括する。冬の時代から今の繁栄にどう至ったのか。
「製作委員会」の功罪
この状況を大きく変えたのが「製作委員会」だ。製作委員会は、複数の企業がアニメの製作資金と、ビジネスの役割を分担するシステムである。
いまではよく知られた製作委員会だが、いつ始まったかを確定するのは難しい。84年(昭和59年)の『風の谷のナウシカ』や88年(昭和63年)の『AKIRA』で製作委員会は既に採用されている。TVアニメシリーズでは93年に放送された『無責任艦長タイラー』が初となった。さらに「冬の時代」を一気にひっくり返した95年の『新世紀エヴァンゲリオン』の成功が、製作委員会ビジネスの基盤を築いたとされる。
しかし、当時のその仕組みは現在の製作委員会とはだいぶ異なる。製作委員会システムは平成の最初の10年間をかけて少しずつ変化し、形成されていった。
確実に言えるのは、80年代に芽生えた製作委員会が、平成の時代にアニメの数を増やす原動力になったことだ。日本動画協会のデータによると、89年(平成元年)のTVアニメ制作タイトル数は77、2017年(平成29年)には340まで増えた。製作委員会はアニメーションの制作資金を放送局に頼らない調達方法として、積極的に活用された。同時に限られたファンをターゲットにしたOVAは、アニメのジャンルを極限まで広げた。
さらにOVA作品の認知度を高めて宣伝する場として、平成半ばとなる00年代にOVAのビシネスモデルが深夜アニメに引き継がれる。TV放送を通じて作品のファンが子どもだけでなく上の世代にも拡大し、映像ソフトの売り上げ増加につながった。
00年代半ばには、劇場映画も含めて新作アニメのほとんどが製作委員会で作られるようにもなった。平成アニメはまさに製作委員会の時代であった。
現在この製作委員会に対しては、「決断が遅くなりがち」「作品がヒットしても制作会社側への利益配分が少ない」といった厳しい批判が業界の内外から寄せられている。しかし、こうしたアニメ制作数を増やす役割もあったことから、製作委員会は生き残ってきたと言える。
関連記事
- 発売中止の作品まで…… アニメの“円盤”は消滅するのか?
アニメのBlu-rayやDVDの売り上げが減少している。動画配信サービスの普及が要因。ただ配信終了した作品は見れなくなるため揺り戻しの可能性も。 - アジア攻めるNetflix、日本作品は生き残れるか 首脳部に直撃
映像配信の帝王、Netflixのアジア戦略に密着。シンガポールのイベントでは日本コンテンツの微妙な立ち位置が浮き彫りに。幹部は日本の出版社買収にも関心抱く。 - アメコミの巨匠スタン・リー 知られざる「日本アニメに見いだした夢」
2018年に亡くなったアメコミの巨匠スタン・リー。実は晩年、日本のアニメ・マンガを積極的に手掛けていた。異国のコンテンツビジネスに見いだした夢とは。 - エロ漫画の「研究本」はなぜ有害図書にされたのか 「わいせつ」の意味を問う
エロ漫画の表現の研究本「エロマンガ表現史」が有害図書に指定された。著者は「有害とは何か」について議論が行われてこなかったと指摘する。 - FGO運営会社がFGOと関係ないボードゲームを作る深い訳 塩川氏に直撃
スマホゲーのFGO運営会社がボードゲームを制作。趣味ではなく新人社員への教育が狙い。ゲーム作りを最初から最後まで実践させて経験値を高める。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.