カメラ開発40年「ミスター・ニコン」に聞く 楽しみ抜いた“名機”開発の裏側:異例の機種「Df」はなぜ生まれたか(2/5 ページ)
40年以上カメラ開発の現場を歩んできた、ニコンの後藤哲朗さん。2013年発売の「Df」には、後藤さんのカメラへの熱い思いが込められている。「便利で使いやすい」とは違うDfの価値とは? 楽しむことを忘れずに取り組んできた開発の経験について聞いた。
F3の開発時、若手だった後藤さんはとにかく目の前のことにがむしゃらに取り組んでいた。「先輩に怒られながら、いろんなことを教えてもらいました。自分でカメラの分解や組み立て、調整をしたり、部品メーカーまで出向いたりと、指示されたことをやりながら経験を積みました」
F3の開発で苦労したことの一つが、新しいセルフタイマーランプの開発。ニコンとして初めて、セルフタイマーランプにLEDを採用したのだ。「屋外で撮影するときも、ランプがはっきり見えなくてはいけません。LEDの中でも特に明るいものを探し回って、日なたで実験を繰り返しました」
また、悔しさをばねに開発に取り組んだ、思い出深い機種もある。1996年発売のフィルム一眼レフカメラ「F5」と、2007年発売のデジタル一眼レフカメラ「D3」だ。
この2つのモデルは時期も性能も異なるが、共通点がある。それぞれの先代モデルは「F4」シリーズと「D2」シリーズだが、これらは同時期のライバルメーカーの商品と比べて「性能が負けていた」のだ。次こそは挽回しよう、と気合いを入れて開発したのが「F5」や「D3」だった。
F5の開発で注力したのは、自動露出、フィルム巻き上げ速度、オートフォーカスの精度だ。F4では「願うところにピタッと合うかどうか」という点で、ライバルメーカーの方が優れていた。F5の開発では、それぞれの機能について、先代機種だけでなくライバル機よりも向上させようと取り組み、弱みを克服した。
また、D3の開発時には、「フルサイズ」と呼ばれる35ミリフィルムサイズの画像センサーを搭載。今ではフルサイズ搭載機種は多いが、当時は「難しい」と言われていた技術だ。フルサイズにすることで超高感度での撮影が可能になり、暗い場所でも撮影できるようになった。D3の発表会では真っ暗な部屋を用意し、その性能を体感してもらったという。
悔しさからの挽回を目指して開発した両機種はヒット。“起死回生”と言えるような機種になった。
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