カメラ開発40年「ミスター・ニコン」に聞く 楽しみ抜いた“名機”開発の裏側:異例の機種「Df」はなぜ生まれたか(3/5 ページ)
40年以上カメラ開発の現場を歩んできた、ニコンの後藤哲朗さん。2013年発売の「Df」には、後藤さんのカメラへの熱い思いが込められている。「便利で使いやすい」とは違うDfの価値とは? 楽しむことを忘れずに取り組んできた開発の経験について聞いた。
「便利だけど面白くない」を解決する「後藤研究室」
執行役員で映像事業部の開発本部長だった後藤さんは 、D3シリーズの開発後、その役職から外れることになる。そして、会社のDNAを次の時代につないでいくための部署を任されることになった。それが、09年から17年まで設置された「後藤研究室」だ。
後藤研究室のメンバーは、ニコンのカメラ開発の歴史を知っている人や写真を撮るのが好きな人などを社内公募して集めた。そして、メンバー間でカメラに関する議論を交わしながら、「研究室」の活動を始めた。
この活動で、後藤さんには実現したいことがあった。それは「忘れ物、落とし物を拾うこと」だ。
このころ、デジタル一眼レフカメラはどのメーカーの商品も使いやすく進化していた。しかし、後藤さんは「どれも似たり寄ったり。 ロゴでしかメーカーを見分ける方法がない。操作は簡単になったが、面白くない」と以前から思っていた。ただ、普段の仕事を抱えながら取り組める問題ではなく、「なんともならないなあ」と感じていたという。
「カメラは趣味の商品。『便利で使いやすい』だけが価値ではないと思います。もっと細かいところにこだわりたい。そのような『気が付いていても手が出ない』あるいは『みんなが気が付いていないことに気付く』ことが後藤研究室の役割だと考えました」
後藤さんと同じようにカメラに対して強い思いを持ったメンバーが集まって活動する中で生まれたのが「Df」の企画だ。このカメラは、通常の新商品開発とは全く考え方が違う。「カメラの楽しさ」を詰め込んだ機種になっているのだ。
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