カメラ開発40年「ミスター・ニコン」に聞く 楽しみ抜いた“名機”開発の裏側:異例の機種「Df」はなぜ生まれたか(4/5 ページ)
40年以上カメラ開発の現場を歩んできた、ニコンの後藤哲朗さん。2013年発売の「Df」には、後藤さんのカメラへの熱い思いが込められている。「便利で使いやすい」とは違うDfの価値とは? 楽しむことを忘れずに取り組んできた開発の経験について聞いた。
デジタルなのに、フィルムカメラの操作感
Dfの外観を見ると、他のデジタル一眼レフカメラの最新機種と大きく異なることに気付く。上部にいくつものダイヤルがあるのだ。感度やシャッタースピードを調整するためにはダイヤルを調整しなくてはならない。撮影前に自分の手でダイヤルをいじると、昔のカメラのような操作感を味わえる。ダイヤルをカチカチと回す感触が懐かしいという人も多いだろう。さらに、「大昔のNIKKORレンズも使える」機種だという。
また、カメラにより愛着を持ってもらうための細かい仕掛けもある。その一つが、カメラ本体に所有者の名前を入れるサービスだ(現在は終了)。
Dfを企画した当時、社内では反対の声が多かったという。「今売れるのは便利なカメラ」「遊びのような開発をしている暇はない」といった声は根強かった。しかし、当時の社長をはじめとして、応援してくれる人もいた。その存在に支えられ、カメラそのものを楽しめる機種の開発を実現できた。
確かにDfは、数がたくさん売れる機種とは言えないかもしれない。しかし、カメラ好きの心を捉え、熱心なファンをどんどん増やしている。今では、Dfのファングループまである。一般のファンが主催して、写真展に行ったり、飲みに行ったり、カメラ談義をしたりする催しに、「海外のファンの方も含めて、多いときは50人ぐらい」が集まるという。
後藤研究室は17年に解散になったが、そこで育まれた精神は今でも社内に根付いている。「8年間でメンバーが育ち、今では部門のトップとして活躍している人もいます。(後藤研究室で取り組んでいたことは)本来なら全員が当たり前に持つべき考え方。経験を生かして、それぞれの場所で取り組んでもらいたいですね」
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