カメラ開発40年「ミスター・ニコン」に聞く 楽しみ抜いた“名機”開発の裏側:異例の機種「Df」はなぜ生まれたか(5/5 ページ)
40年以上カメラ開発の現場を歩んできた、ニコンの後藤哲朗さん。2013年発売の「Df」には、後藤さんのカメラへの熱い思いが込められている。「便利で使いやすい」とは違うDfの価値とは? 楽しむことを忘れずに取り組んできた開発の経験について聞いた。
初心忘るべからず、写真忘るべからず
現在はフェローとして研究や開発をサポートする後藤さんが、よく口にする言葉がある。「初心忘るべからず、写真忘るべからず」という言葉だ。
「デジタル画像が一般的になりましたが、カメラはあくまで『写真』を撮る機械です」。ニコンには、苦労してプロに受け入れられるカメラを開発してきた歴史がある。「フィルムカメラの苦労があったからこそ、今がある。それも語れるような仕事をしてもらいたいですね。新しい技術を買うことはできますが、買えないものもある。そのキーワードが『写真』なのかもしれません」
その感覚を磨くために、後藤さんが大事にしているのが“現場”だ。「データを見ているだけでいいものができるわけではありません。外に出て、お客さまの声を聞くことが大切です」
特に、スポーツイベントや写真展にはよく足を運ぶ。カメラを持っている人に名刺を渡して使い心地などを聞いて回る。ライバルメーカーのカメラを使っている人に対しても同じ。ときには、商品に対するクレームを言われることもあるが、それも大切な声だ。ライバルメーカーが運営するショールームにも出向き、堂々と名刺を出した上で新製品について教えてもらうこともある。「カメラを使っている現場、写真を見せる現場、カメラを売る現場。いろんなところで話を聞いてきました」
なぜそこまで足を動かし続けることができるのか。それは何よりも、カメラに関わる仕事を楽しんでいるからだ。「カメラは趣味の商品です。自分で楽しまないと、いいものはできません。肩の力を抜いて、お客さまが喜んで使っているところを思い描く。難しいことかもしれませんが、そうすることで自由なアイデアが生まれるのです」
後藤さんのカメラの世界への探求心は、これからも尽きることはない。カメラはどんどん進化しているからだ。「スマートフォンでもきれいな写真を撮れるようになりました。スマホのカメラの研究ももっとしていかないと」と意気込む。
「商品開発では、まだまだやり残したことがある。常に『次の機会にはこれをやろう』と考えています。これからも『名機』と呼ばれるカメラの誕生に貢献したいですね」
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