働き方改革と無縁の「深夜国会」 膨れ上がる税金と“魔”の高揚感:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(4/4 ページ)
新年度予算案の衆院通過を巡って「深夜国会」が開かれ、衆院職員の残業代が一晩で1800万円に上ったことが話題になった。さまざまな議論があるが、筆者が注目するのは深夜国会の「高揚感」。危険な高揚感で満たされないように「国会とは何か」を議論すべきだ。
疲れ果ててボロボロでも「頑張る」危険
しかしながら、どんなに高揚感に満たされていても、長時間労働と深夜勤務は脳血管疾患・心臓疾患のリスクを増大させます。本人のやる気ややりがいに関係なく、過労死する可能性が高まってしまうのです。
さらに、高揚感に満たされると、身も心も疲れ果ててボロボロになっていること自体が「すごいこと」「できる人」の証明のように思えてしまいがちです。特に周りの人たちから「自分も頑張ってる。あなたも頑張って」などとエールを送られてしまうと、「うん、頑張らなきゃ」とさらに奮起する一方で、疲れ切った心がその苦しみから逃れるために、命を絶つという選択をさせてしまうのです。
私たちは「労働者」である前に、「人」という霊長類の動物です。仕事のために生きているのではなく、生きるために仕事をしているだけ。公僕であれなんであれ、この事実に変わりはありません。
その「当たり前」を踏まえた上で、まずは「国会とは何か?」と誠実な議論をし、小手先でない改革をしてほしいと心から願います。
河合薫氏のプロフィール:
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)
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