トヨタとJAXAの宇宙探査、「月」を選んだ背景:宇宙ビジネスの新潮流(2/3 ページ)
JAXAとトヨタ自動車が国際宇宙探査ミッションでの協業の可能性を検討。2018年5月より共同検討してきた燃料電池技術を用いた月面での有人探査活動に必要なモビリティ「有人与圧ローバー」の検討を進めていくという。
自動車技術を宇宙探査に生かす
1つ目、宇宙探査への異業種関連技術の利活用という意味では、今回のように自動車メーカーが宇宙探査ロボットの開発を支援するという前例がある。民間主体での月面無人探査を目指すベンチャー企業の独PTScientistsをこれまで支援してきた独自動車メーカーのアウディの協業だ。
PTScientistsは18年に幕を下ろした月面無人探査レース「Google Lunar XPRIZE」への参戦を機に誕生した企業だ。筆者が主催する宇宙ビジネスカンファレンス「SPACETIDE」にも15年に登壇してもらったことがあるが、同社では月面まで100kgのペイロード(荷物)を輸送することが可能な月面着陸船「ALINA」と月面を走行可能なローバーの双方の開発を進めている。
同チームを15年より支援を行っているのがアウディだ。アウディは独自の四輪駆動技術「Quattro(クワトロ)」と電動駆動技術「e-tron(イートロン)」などが著名であるが、両社による協業の下、こうした技術を活用した約30kg相当の「Audi Lunar Quattro」と呼ばれる小型ローバーの開発を進めているのだ。
官民連携もキーワード
また官民連携も時代の流れだ。民間企業の活躍は、国際宇宙ステーションまでの物資輸送を行っている米SpaceXなど地球近傍で話題になることが多い。他方で宇宙探査分野では、政府が目標設定を行い、予算獲得と技術開発を主導し、成果を上げてきたプロジェクトが多い(※参考までに宇宙ステーションは高度400kmにあるが、月は38万km離れており、距離は全く異なる)。
しかしながら、昨今は宇宙探査分野において変化がある。昨年筆者が参加した米国の国際会議の場においても、宇宙開発において今後重要になってくるパートナーシップとして「国際パートナーシップ」とともに言及されていたのが「官民パートナーシップ」であり、民間企業との協業に注目が集まっている。
NASA(米航空宇宙局)は28年までに月面に米国宇宙飛行士を送り込むことを計画している。さらに民間企業とのパートナーシップで有人月着陸システムを設計・開発していく意向を示しており、今年2月にはそのための提案募集を行っている。今回の発表では「チームジャパン」というキーワードが掲げられたが、JAXAとトヨタの連携は官民パートナーシップの好例と言えるのではないか。
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