「隠すことは何もない」? ネットの“のぞき見”、鈍感さに潜む危険:世界を読み解くニュース・サロン(6/6 ページ)
タクシーの配車アプリなど、ネット上のプライバシー問題が注目されている。この問題について「隠すことは何もないから気にしない」という主張が根強くあるが、本当にそれでいいのか。自分の情報を“見られる”ことの本当の問題とは?
私たちのプライバシーが守られる方法は一つ
では今後、どうすればこのプライバシー問題に対処できるのか。この答えは非常に難しい。そこで参考までに、少し前に食事をした元米政府高官のコメントを紹介したい。
「Android携帯を購入したら、SNSなどに加入したりする。その一方で、私たちはプライバシーについて批判をしている。プライバシーを求めるなら、銀行のATMは使うべきではなく、窓口に行ってフォームに記入してお金を引き出すしかない。個人情報をどんどん集めていく携帯電話も使うべきではない、となってしまう。例えば、16年以降に売り出された自動車なら、自動車メーカーはあなたがどこに行っているのかを知ることができるわけです。もはやプライバシーという概念はないと考えていい。何から何まで知られて、見られている。重要なのは、プライバシーがどう守られるべきなのかを議論することなのです」
個人情報を吸い上げられたくないから、新しいテクノロジーは使わない、という選択肢は考えるべきではない。時代の流れとともに生まれる、人の生活を便利にするサービスや技術などは享受したほうがいいからだ。ならば、その上でどうするのか。
そこで登場しているのが、GDPR(EU一般データ保護規則)などの個人情報保護の規制である。GDPRは欧州経済領域(EEA)域内で取得した個人名や電子メールアドレス、クレジットカード番号などの個人データの保護を目的とした厳しいルールで、18年5月25日から適用がスタートしている。歴史的な規制であるとの評判も耳にする。
こうした罰則のある規制を国際的にきっちりと固めて、共通のルールをもとに、国ごとの事情に則したプライバシー保護の方策を考えることが必要だと言える。ただ、世界ではそんな取り組みが進んでいるが、プライバシーを軽視している中国やロシアといった強権国家がこうした規制を拒否している。この欧米と中ロの間にあるネット規制の「覇権争い」についての話はまた別の機会に取り上げたい。
これからさらに増えるユーザーの詳細なデータをどう扱うのか。元米政府高官の言うように、規制の議論を深めるしかないということだろう。それ以外に、私たちのプライバシーが守られる方法はないのではないか。
少なくとも確かなことは、データのプライバシー問題は、「隠すことは何もない」という言い分では、決して済ませてはいけないということだ。
筆者プロフィール:
山田敏弘
元MITフェロー、ジャーナリスト・ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。最近はテレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。
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