リスクだらけの首都・東京 在京企業が本社移転を考えるべき深刻な理由:「首都機能マヒ」が日本を止める(6/6 ページ)
魔物のような魅力を持つ「虚大都市」東京。しかしあらゆるものが一極集中し過ぎた首都は、重大なリスクをはらんでいる――。
リニア開通、テレワークで働き方が変わる
関東大震災で明らかになったように、首都に何かがあったときの他地域への影響は計り知れません。
今のような東京一極集中を続けるなら、東京の安全性を格段に向上させる必要があります。首都税を課してのインフラ整備や焼け止まり帯の整備、東京の建築物の安全性を他地域より高める「首都安全係数」の新設などを考えてもいいのではないでしょうか。
関東大震災から3週間余り後の9月27日、帝都復興院が設置され、後藤新平が総裁に就きました。
後藤は、予算規模40億円もの東京・横浜の都市計画と帝都復興計画を提案。その中身は、国による被災地の買い取りや100メートル道路の建設、ライフラインの共同溝化など、斬新な計画でした。
財政緊縮のため、予算は政府案の段階で約6億円に縮減されましたが、後藤は内務省の優秀な部下を使って計画を策定。彼でなければ描けなかった復興という大きなビジョンがあり、そのマインドが残って今の東京につながる都市計画の骨格ができたといえます。住宅も青山の同潤会アパートなどが実現しました。昭和通りができたおかげで、のちに高速道路もつくられました。
現在の東京の原形がここでできたのです。
戦災復興時には、東京にそういう人がいませんでした。戦争に負けた後で、有能な人はみんなはずされたからです。連合国軍がやってきて、国の体制を守るのに必死で、復興まで考える余裕がなかったのかもしれません。
逆に地方には気概のある人がいて、独自の100メートル道路の街をつくった名古屋をはじめ、東京以外の多くの街では、都市がちゃんと形づくられました。
今の課題は、2020年のオリンピック・パラリンピック後の東京をどうするのか、でしょう。2027年にリニア中央新幹線が開通すると、東京と名古屋が40分で結ばれ、大阪も含めた「スーパーメガリージョン」(巨大経済圏)の形成が着々と進みます。そんな中で、リスクの大きい東京に住み続ける意味はどれだけあるのでしょうか。
今はテレワークもでき、高速移動手段もあります。人間の生き方が大事な時代ですから、リニアが止まる山梨や長野や岐阜に住む人を増やして、首都を小さくするべきではないでしょうか。
東京は首都機能をつくるのにはよいのですが、人が住むのに適した場所ではないと、声を大にして言わなければいけません。東京では老人福祉施設や火葬場が不足していて、高齢になったときに苦労しています。定年後、元気なうちにふるさとに戻ってくれる人が増えたらいいなと思っています。
さて、最後にもう一度問います。
それでも、東京に住みますか?
著者プロフィール
福和伸夫(ふくわ・のぶお)
1957年生まれ、名古屋市出身。名古屋大学教授・減災連携研究センター長、あいち・なごや強靱化共創センター長、工学博士、日本地震工学会会長など。81年3月名古屋大学大学院工学研究科修了。同年大手建設会社入社。91年名古屋大学に転じ、2012年1月より現職。専門は、建築耐震工学、地震工学、地域防災。早期の耐震化を強く訴え、防災の国民運動作りを率先。「自然災害は防ぐことは出来ないが、その被害を減らすことはできる」という信念のもと、研究のかたわら、耐震教材を多数開発し、全国の小・中・高等学校などで「減災講演」を続けている。巨大な建物を実際に揺らすことのできる世界に類をみない研究・展示施設、名古屋大学「減災館」はその結集とも言える。中央防災会議防災対策実行会議に設置された「南海トラフ沿いの異常な現象への防災対応検討ワーキンググループ」の主査を務めた。
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