Amazonベゾス不倫騒動と、サウジ記者殺害をつなげる「デジタル監視」の実態:世界を読み解くニュース・サロン(5/5 ページ)
米アマゾンのジェフ・ベゾスCEOの不倫疑惑が国際問題に発展しそうな気配が漂っている。個人的な情報が流出したことについて、ベゾス氏の捜査では「ある国」が関与した可能性を指摘。その背景には、サウジアラビア人記者殺害事件があって……。
スマホをのぞけば全てが見える
一般市民から見れば、政府うんぬんという話より以前に、こうした監視ができてしまうことに驚かされるのではないだろうか。ただ現実にこうした技術は存在し、同様のプログラムを国家に販売している企業は少なくない。例えば、英企業ガンマ・グループは、「フィンフィッシャー」というスパイウェアを販売し、イタリア企業のハッキング・チームは、「リモート・コントロール・システム(RCS)」というシステムを販売している。ドイツなどにも同じようなスパイウェアを開発・販売している企業があると報じられている。まさに、サイバー時代の「武器商人」である。また世界中の多くの強権国家が、こうしたシステムを導入していることも明らかになっている。
最近、話を聞くことができたイスラエルの元政府関係者は、「現在、スマートフォンにはユーザーの個人情報の全てが詰まっている。何もかもだ」と言っていた。つまり、監視をしたい人にしてみれば、スマホをのぞき見れば、その人物の全てが手に取るように分かってしまうということなのである。攻撃者は、そこに狙いを定めている、と。
ベゾスの問題では、ベッカーは米政府当局者に通報し、自分たちの捜査で判明した事実を提供したと述べている。つまり、ベゾスの不倫問題は、今後、サウジの国家としての監視活動への批判にも広がっていき、ワシントン・ポスト紙も巻き込んでウォーターゲート事件級の一大騒動に発展する可能性がある。登場人物は、ベゾスやムハンマド皇太子、カショギ記者、ベッカー、トランプ、トランプの取り巻き、AMI理事など、ということになる。今後の展開に目が離せない。
私たちの生活はスマホの登場で一変した。かなり便利にもなったし、多くの無駄もなくなった。だがその一方で、ベゾスやカショギ記者のケースであらわになったように、失ったものも少なくない。
世界一裕福で、大きな影響力のあるベゾスが、このスキャンダルから逃げることなく真相の究明にまい進することが、便利になったデジタル時代の今後の在り方を考えさせてくれるきっかけになるかもしれない。
筆者プロフィール:
山田敏弘
元MITフェロー、ジャーナリスト・ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。最近はテレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。
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