宇宙で野菜や培養肉を地産地消!? プロジェクト「Space Food X」に迫る:宇宙ビジネスの新潮流(4/4 ページ)
宇宙で食料の地産地消も視野に入れた官民のプロジェクト「Space Food X」が始動。日本ならではの戦略とは。
閉鎖環境での食文化研究を
――宇宙でも細胞培養肉は活用可能なのでしょうか? 地上との違いは何でしょうか?
羽生: 食料技術は地上と宇宙で重なる部分が大きいと思います。例えば宇宙空間で人々が生活をする場合には、閉鎖的な循環系環境を作って省資源、リサイクル、環境維持といった技術を実装することが重要になります。こうした環境は宇宙だけではなく、地上においても船や離島などに類似例が存在します。
細胞培養肉の研究はNASAでも過去に行われたことがあるのですが、基礎研究レベルにとどまっています。宇宙空間で適用する場合は微小重力や放射線の影響なども考えらえるため、宇宙で技術実証した後に地球に戻して確認したり、地球で培われた技術の有効性を月面で確認したりといった取り組みが求められると思います。
――今後の取り組みは?
小正: 将来の宇宙食に関しては各国でも開発が行われています。例えば欧州では、「メリッサプロジェクト」という植物栽培装置や循環システムの研究開発が行われています。ただ、欧米では従来型の植物栽培や機能的価値の追求が中心ですが、Space Food Xでは文化的価値としての食事、ストレスを感じない食(の研究)、食料安全保障など多様な視点もあることが特徴です。
今日話題に出た閉鎖環境実験などは今後、実行したいと思います。おいしさの研究や技術開発はもちろんのこと、閉鎖環境における人間関係の在り方やそこで生まれる食文化に関しても研究していきたいです。
(インタビューここで終わり)
宇宙食をテーマとしてここまで大きな動きがあるのは世界的にも稀有(けう)だ。Space Food Xの今後の取り組みを注視していきたい。
著者プロフィール
石田 真康(MASAYASU ISHIDA)
A.T. カーニー株式会社 プリンシパル
宇宙業界、自動車業界、ハイテク・IT業界などを中心に、政府・大手企業・ベンチャー企業等に対して15年超のコンサルティング経験。東京大学工学部卒。内閣府 宇宙政策委員会 宇宙民生利用部会 および 宇宙産業・科学技術基盤部会 委員。日本初の民間宇宙ビジネスカンファレンスを主催する一般社団法人SPACETIDE共同創業者 兼 代表理事 兼 CEO。著書に「宇宙ビジネス入門 Newspace革命の全貌」(日経BP社)。
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