こじれる長崎新幹線、実は佐賀県の“言い分”が正しい:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/5 ページ)
佐賀県は新幹線の整備を求めていない。佐賀県知事の発言は衝撃的だった。費用対効果、事業費負担の問題がクローズアップされてきたが、これまでの経緯を振り返ると、佐賀県の主張にもうなずける。協議をやり直し、合意の上で新幹線を建設してほしい。
長崎新幹線の経緯を振り返る。建設については1972年の全国新幹線鉄道整備法に基づいて建設基本計画路線に指定された。ルートについては73年に「博多〜筑紫平野(新鳥栖)〜佐賀市付近〜長崎」と定められた。85年に国鉄はルートの具体案を示した。このときのルートは早岐経由で、佐世保市への配慮があったという。佐世保市が、試験運行中に放射線漏れ事故を起こした原子力船「むつ」の修理を受け入れたからだ。
しかし、87年に国鉄が分割民営化すると整備新幹線建設の枠組みが変わる。国鉄は国策に沿って新幹線を受け入れるけれども、JRは民間会社だから国策で強制できない。まずは新幹線の受け入れについてJRの合意が必要になる。そこでJR九州は「国鉄案では合意できない。早岐経由では遠回りで採算が取れない」とし、現在のような短絡ルート、フル規格新幹線ではなくスーパー特急方式を提案した。
【注】スーパー特急方式:トンネルや高架橋、曲線半径などの構造物は新幹線と同等とし、軌間を在来線と同じとしつつ、最高時速200キロで運行する
スーパー特急方式は事業費が小さく、在来線にも直通できるメリットがある。また将来、フル規格新幹線へ昇格可能だ。そこで北陸新幹線長野〜金沢間、九州新幹線鹿児島ルートもスーパー特急方式で建設予定だった。
並行在来線問題を解決していない
92年、運輸省は博多〜鳥栖〜佐賀〜武雄温泉を在来線経由、武雄温泉〜長崎間をスーパー特急用新線に直通させるルートを策定。国、JR、沿線自治体の合意が得られた。武雄温泉〜長崎間のうち、並行在来線となる長崎本線の肥前山口〜諫早間については、新幹線開業後20年間はJR九州が運行する。これも長崎県と佐賀県が合意している。しかし、鳥栖〜佐賀〜武雄温泉間は在来線ルート経由として佐賀県は合意している。在来線を使うから、この区間に並行在来線問題さえ存在しなかった。
一方、新幹線建設予定の自治体からはフル規格新幹線化の要望が高まった。そこで北陸新幹線、九州新幹線鹿児島ルートはフル規格新幹線で建設が決まった。長崎新幹線のスーパー特急区間も同様にフル規格新幹線化の要望が強まった。しかし、鳥栖〜佐賀〜武雄温泉間の在来線直通を念頭に置いているため、フル規格新幹線化はできない。
そこに新たな光が差し込んだ。フリーゲージトレインの実用化だ。フリーゲージトレインなら、武雄温泉〜長崎間をフル規格新幹線に昇格させても、博多〜武雄温泉間の在来線直通の枠組みは保てる。しかもフル規格新幹線に昇格した九州新幹線鹿児島ルートに新鳥栖から直通できる。さらに山陽新幹線、東海道新幹線に直通できる。そこでフリーゲージトレインの採用が決まり、武雄温泉〜長崎間はフル規格化された。
ここで佐賀県はどうしたかといえば、静観である。佐賀県内は在来線を使うという枠組みは変わらないからだ。佐賀県内は在来線のまま。他はお好きにどうぞ、である。
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