近鉄のフリーゲージトレインは「第2の名阪特急」になる?:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/6 ページ)
長崎新幹線のフリーゲージトレイン(軌間可変列車)採用は消えたが、近鉄が開発に積極的な姿勢を見せている。新幹線でなくても、この技術は役に立つ。なぜかというと……
長崎新幹線のフリーゲージトレイン(軌間可変列車)採用は消えた。フリーゲージトレインとは、レールの幅(軌間)が異なる路線を直通できるように、車輪の幅の長さを自動で変えられる列車だ。
6月8日、与党の整備新幹線建設推進プロジェクトチームの検討委員会がフリーゲージトレインを選択肢から外し、フル規格またはミニ新幹線の二者択一とした。費用負担に難色を示す佐賀県に対して、検討委員会はJR九州と長崎県に対して、佐賀県の負担軽減策を検討するよう求めた。
新幹線の建設費用は路線の距離に応じて決定されており、必ずしも便益とは比例していない。この隠れた問題点が表に出てきた。これまで作られた新幹線は基幹路線ばかりで、それなりに沿線に等しく便益があった。しかし、優先度の低い基本計画路線は、大都市との距離、所要時間の短縮の度合いによって、通過自治体の便益に差が出る。
これは新幹線に限らず、行き止まり式のローカル線問題にも共通する。起点側の都市の自治体は資金力がある半面、終点側へ向かう市民は少ないから、ローカル線の維持にお金を使いたくない。終点側の町村は都市への交通手段を確保したいけれども、独力で線路を支える資金がない。起点と終点の格差問題がある。便益が大きい側が負担すべきだけれども、負担は線路の距離に合わせて平等に、となれば、便益のない側は負担したくない。
この格差問題は佐賀県に限らず、今後も検討される新幹線計画路線で繰り返されるだろう。今後も日本全国に新幹線を張り巡らせるつもりなら、この機会に枠組みを変更すべきだ。あるいは全国新幹線ネットワークのなかで、便益の可能性を示すべきだ。
佐賀県の主張は対福岡の便益に終始しており、関西経済圏から受ける便益を考慮していない。フリーゲージトレインは山陽新幹線に乗り入れできない。関西経済圏を考えれば、山陽新幹線に直通できるフル規格またはミニ新幹線の方がいい。突破口はここだと思うのだが。
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