こじれる長崎新幹線、実は佐賀県の“言い分”が正しい:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)
佐賀県は新幹線の整備を求めていない。佐賀県知事の発言は衝撃的だった。費用対効果、事業費負担の問題がクローズアップされてきたが、これまでの経緯を振り返ると、佐賀県の主張にもうなずける。協議をやり直し、合意の上で新幹線を建設してほしい。
手続き上は佐賀県が正しい
ところが、フリーゲージトレインは開発が遅れ、国は実用化を断念する。もともと実用段階にない技術を前提とした建設計画が甘かった。(関連記事:フリーゲージトレインと長崎新幹線の「論点」)
ここで佐賀県と長崎新幹線フル規格支持側の見解が分かれた。
佐賀県としては、フリーゲージトレインが実用化されないならば、その前の段階に戻るべきだと考えている。フル規格新幹線として工事中の武雄温泉〜長崎間をスーパー特急方式に戻せ、と。
長崎県、政府与党プロジェクトチームは、フリーゲージトレインが実用化されないならば、両端の武雄温泉〜長崎間、新鳥栖〜博多間はフル規格新幹線でつくることだし、佐賀県内もフル規格新幹線をつくればいい、と考えている。
さて、どちらが正しいだろう。これまでの経緯をおさらいすると佐賀県の方が正しい。
佐賀県は92年の合意に忠実であるだけだ。鳥栖〜佐賀〜武雄温泉間にフル規格新幹線をつくるとすれば、JR九州との合意はできているだろう。費用対効果の算定もフル規格が有利と示している。しかし、「沿線自治体とJRの並行在来線の処理の合意」について、話し合いすら行われていない。整備新幹線の着工条件を満たしていない。
山形・秋田新幹線のような在来線乗り入れ方式のミニ新幹線にすれば並行在来線問題はない。しかし、長崎本線をミニ新幹線にすれば在来線列車の運行に支障が出る。軌間変更工事中は運休するし、新幹線優先のダイヤにすれば在来線列車に影響する。
まずは新幹線を建設するにあたり、鳥栖〜佐賀〜武雄温泉間の在来線をどうするか。その話し合いを始めなくてはいけない。しかし、この肝心な手続きをすっ飛ばして、佐賀県に「フル規格新幹線にしますか」「ミニ新幹線にしますか」という選択を迫っている。これでは佐賀県が同意できるわけがない。佐賀県が交渉のテーブルに立つ義理もない。
佐賀県以外の人は「なぜ佐賀県はかたくななんだ」「良い条件を引き出そうとゴネているだけではないか」と思うかもしれないけれど、それは間違っている。私のように事業費負担の問題だと思う人がいるかもしれない。それも間違っていた。
佐賀県は「間違った手続きには応じない」。それだけだ。佐賀県の態度は法治国家として正しい。
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