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こじれる長崎新幹線、実は佐賀県の“言い分”が正しい杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)

佐賀県は新幹線の整備を求めていない。佐賀県知事の発言は衝撃的だった。費用対効果、事業費負担の問題がクローズアップされてきたが、これまでの経緯を振り返ると、佐賀県の主張にもうなずける。協議をやり直し、合意の上で新幹線を建設してほしい。

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それでもフル規格新幹線をつくるべきだ

 佐賀県は正しい。しかし、日本の将来を見据えれば、鳥栖〜佐賀〜武雄温泉間のフル規格化は実施すべきだと思う。理想的な形は、きちんと佐賀県と並行在来線問題を話し合い、フル規格新幹線を建設することだろう。佐賀県は費用対効果に疑問を持っているけれども、視野を京阪神直通まで広げれば、佐賀県にも利点の多い話だ。

 私の1度だけの観察しか根拠がないけれども、新鳥栖駅で九州新幹線と在来線特急「かもめ」を乗り継ぐビジネスパーソンは多かった。山陽新幹線直通列車からの乗り換え客だろう。新幹線があれば、佐賀県に活力が生まれると信じている。どうか佐賀県もフル規格新幹線の利点を理解してほしい。新幹線は佐賀県だけの問題ではなく、国民の財産でもある。国民にとって佐賀県にアクセスしやすくする手段は必要だ。

 それでも佐賀県がフル規格新幹線を拒むなら、武雄温泉で新幹線と在来線の乗り換えが発生し続ける。この方式は所要時間がほとんど短縮されず、運賃、特急料金が上がる。この状態は避けたい。(関連記事:迷走する長崎新幹線「リレー方式」に利用者のメリットなし

 当面の解決案は2つ。一つは92年の合意の段階に戻し、スーパー特急方式に戻す。武雄温泉駅で乗り換えるよりマシだ。武雄温泉〜長崎間は高規格路線だから、現在の在来線特急「かもめ」より所要時間がちょっとだけ短くなる。ただし、フル規格で着工した武雄温泉〜長崎間を「元の計画に戻す」費用がかかる。

 もう一つは、佐賀県の意向とは関係なく、新たな直行ルートで長崎新幹線を建設する。新鳥栖ではなく、博多南駅付近から武雄温泉駅まで直進する。膨大な費用が必要だ。しかし、もちろん佐賀県の事業負担なしで建設する。新鳥栖も、佐賀も、肥前山口も通らなくていい。佐賀県は新幹線を求めていないから当然だ。佐賀県の中心地に寄り添う必要はない。

 博多南〜武雄温泉間直行ルートであれば、長崎〜博多間、長崎〜京阪神間の所要時間はもっと短縮できる。長崎県にメリットの多いルートだから、長崎県の負担を増やしてもらおう。新ルートとして捉えて、鳥栖〜佐賀〜武雄温泉間を並行在来線とはしない。JR九州が運行する。そのかわり、独立した1つの路線として営業成績が思わしくなければ、自治体に対して存廃の話し合いに応じていただく。

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佐賀県の「新幹線はいらない」を尊重し長崎への所要時間を短縮するなら、緑のルートでも良いのではないか?(地理院地図を加工)

 私はどちらかといえば後者が良いと思う。私はいままで、「九州新幹線西九州ルート」と呼んでいたけれど、今回はあえて「長崎新幹線」と書いた。その理由は、佐賀県抜きで新幹線をつくってもいいと思ったからだ。

 それでも、私の本音は現行の長崎本線に沿ったフル規格新幹線だ。佐賀駅も経由してほしい。佐賀県も政府与党プロジェクトチームも、はじめから正規の手順で協議をやりなおしてほしい。何よりも佐賀県に新幹線の価値を正しく評価してほしい。

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。


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