「月28日勤務」「危険な環境」 東京五輪の建設現場に根付く“恐怖の文化”:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(4/4 ページ)
2020年東京五輪の競技会場などの建設現場における「過酷な労働環境」を指摘する報告書が公表された。そこに記された「culture of fear(恐怖の文化)」という言葉が象徴するように、日本では非人間的な働き方が“当たり前”になっているのではないか。
労働コストが下がり続けるのは日本だけ
かつての日本の企業には、「働く人を大切にする」という経営哲学が存在し、人の摂理に合ったさまざまな制度が存在していました。特に1970年代後半に、政府が「日本型福祉社会」にかじを切ってからは、日本の企業は「社会福祉の担い手」とし、新卒一括採用、入社後の教育、年功賃金、福利厚生を充実させ、会社員を家族のように大切にしました。
心理学者のマズローが提唱した「ユーサイキアン・マネジメント(働く人々が精神的に健康であり得るためのマネジメント)」が実践されていたのです。
しかしながら「会社組織」は、平成30年間で大きく変わりました。会社員は「人」ではなく、「コスト」になり、会社を守るために人がリストラされ、賃金カットの目的で成果主義が取り入れられ、業績の上がらない部署は切り捨てられ、非正規という「低賃金でいつでも切れる社員」を増やし、過労死や過労自殺、うつ病を生む“恐怖の文化”がまん延しています。
その変貌ぶりは、以下のグラフからも明確です。
これは1999年を基準に、2012年までの労働コストの推移を示しています(OECD調べ)。
右肩下がりになっている青い線が日本です。ご覧の通り、世界の国々の労働コストが一貫して上昇傾向にあるのに対して、唯一、日本だけ労働コストが下がり続けているのです。
企業側が「人」ではなく、「カネ」だけを見た結果、何人もの命が奪われ、危険な環境で「今」も働かされている人たちがいる。「恐怖の文化」を断ち切る努力を企業にしていただきたい。
そして、どうかご安全に、これ以上誰も傷つくことがないよう、組織委員会には現状に真摯(しんし)に向き合い、早急に改善に努めてほしいです。
河合薫氏のプロフィール:
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)
お知らせ
新刊『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)が発売されました!
2017年発売の『他人をバカにしたがる男たち』で解説した「ジジイの壁」の背景となる「会社員という病」に迫ります。
“ジジイ”の必殺技は「足を引っぱる」こと。公の場で「彼女の発言を補足しますと……」と口を挟んでしまう“面目つぶし”、「私は指示したのですが○○が動かなくて……」と相手を悪者にする“責任逃れ落とし”、他人に関する必要のない情報を上司に伝える“アピつぶし”、そして“学歴落とし”や“悪評流し”――。
不毛な言動に精を出して「ジジイ化」してしまう人たちのジレンマと不安の正体について解説します。
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