ロボアドバイザーサービス大手のウェルスナビが5月24日、資本金を約20分の1に減らす減資を行った。これまで約20億円あった資本金が1億円となる。その理由はなんだったのか?
資本金1億円以下の企業に税務メリット
狙いは税務メリットだ。税務上、資本金1億円以下は中小企業、1億円超は大企業と分類されており、それぞれ税制が異なる。
「資本金を1億円以内に収めることで、大企業が受けている税制ではなく、中小企業が受けている税制が適用される。我々はスタートアップなので、中小企業の税制が本来あるべき姿」だと、ウェルスナビの柴山和久社長は説明する。
特に違いが大きいのは、地方税である外形標準課税の扱いだ。通常、税金は企業の利益に対してかかるが、利益に関わらずかかってくるのが外形標準課税だ。地方自治体から受けている行政サービス分を、企業が分担すべきだという考え方に基づいている。事業所の床面積や従業員数、資本金などから税金は決まってくるが、資本金1億円以下の場合、対象外となる。
そのほかにも軽減税率が適用されたり、会計監査人の設置義務がなくなったり、交際費の経費化可能額などに違いがあり、さまざまな税務メリットがある。
テクノロジースタートアップのベストプラクティス
昨今、上場企業であっても節税目的で減資を行う企業が続出している。これは法令違反ではないが、税制の意図を考えると望ましいものではないだろう。
一方で、ウェルスナビは設立から5年少々のスタートアップ企業だ。柴山氏が「当社は中小企業」だというのはこれを指している。
ではなぜ実質的には中小企業なのに、大企業扱いになってしまうのか。その理由はテクノロジースタートアップならではの資金調達手段にある。
「伝統的な日本企業では、工場を作ったり鉄道を引いたりして、後から回収するというモデル。工場や線路を担保にできるので、銀行から融資を受けて事業を作っていく。テクノロジースタートアップでは、担保にできるような物理的な設備があるわけではないので、融資を受けるのが難しい。そのため、エクイティによる資金調達(増資)を行うことになる」(柴山氏)
融資の代わりに増資によって資金を調達するため、資本金だけが膨らんでしまい、税務上、成熟した大企業のように見えてしまうというわけだ。
減資によって、実態に即した中小企業レベルに資本金額を減らすことは、「テクノロジースタートアップにおいて、一般的に行われているベストプラクティス」だと柴山氏は説明した。
財務上の健全性には影響なし
一般に減資は業績不振の企業が行うもの、というイメージがある。これまでに累積した赤字である繰越欠損金を、減資することで相殺し、解消できるからだ。財務の健全性に影響はないが、貸借対照表の見栄えがよくなる。
ウェルスナビの純損失は年々拡大しており、2018年12月期は約17億円の赤字となっている。ただしこれは積極的に事業拡大に向けて投資を行うフェーズだからだ。
「財務指標上の資本金が減少することで、不安に感じられる方もいるかと思う。実質的には財務基盤への影響はない」と柴山氏。
ウェルスナビのような証券会社の場合、財務の健全性を測る指標として自己資本規制比率がある。これは、リスク相当額に対して、どのくらいの自己資本を持っているかを表すもので、金融商品取引法で120%の維持義務が課せられている。ウェルスナビの自己資本規制比率は19年3月末時点で462.7%となっており、問題のない数字だ。
この自己資本は、基本的に資本金などから過去の利益の合計である利益剰余金を引いて計算されている。減資によって資本金とマイナスの利益剰余金が相殺されても、自己資本への影響はない。
今回の減資は、融資ではなく増資で資金調達をせざるを得ないテクノロジー系スタートアップが、税務上、大企業扱いから中小企業に扱いを戻すために行ったもので、財務の健全性には影響がないといえそうだ。
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