うちの会社も「好きな日に出社し、嫌いな仕事はやらなくていい」働き方はできますか? “自由すぎるエビ工場”のトップを直撃:本気で社員を幸せにする会社(2/3 ページ)
「好きな日に働き、嫌いな仕事はやらなくていい」――。そんな働き方をしているにもかかわらず、業務がうまく回っているエビ加工工場「パプアニューギニア海産」。なぜ、この工場は「到底できそうもない働き方」ができるのか。
面談で「困っていること」を探す
―― 働く人が困っていること、気になっていること、働きやすくする工夫などは、具体的に、どのように探すのですか?
武藤 一つはパートさんとの面談ですね。いまパートさんが15人いて、通常は「話がある人は声をかけてください」と言っています。何か問題があるなと感じたときは、入社順に1人ずつ面談をします。短い人で30分、長い人で1〜2時間です。
―― パート長と話すという会社は多いですが、そうではないんですね。
武藤 そもそも、うちは全員が平等になるようにパート長はつくっていないんです。
人は3人集まると2対1になったり、序列をつくったりします。そうなると、必ず誰かが不満に思う。パートさん同士の中でそういう人間関係ができてしまうと、いろいろ難しくなると感じました。
だからパート長は廃止しましたし、パートさんの給料は一律でみんな同じです。そういう状態の中で、僕が一人ずつ話を聞いて、問題解決の方法を探して、必要ならルールをつくります。でも、「工場長に話をした」「社員も知っている」というだけでパートさんの不満が解消する場合も多いのです。
―― 組織の上に立つ人が「ちゃんと見ているよ」とメッセージを発することが大切ですね。
武藤 そうです。そもそも人は、際限なく欲求が続く生き物ですよね。いまの状態がすごく良かったとしても、慣れてきたらもう一つ上を求める。けれど、会社という組織の中では、それを求めても「許される」「許されない」という判断がつきにくくなりがちです。それを平等に判断して明確に示していくのが、上に立つ僕らの仕事だと思っています。
また、僕はマネジメントする人が現場に入るべきだという考え方です。一緒にやっていれば、作業の仕方や人の配置など、空気感で「最近変だな」と分かるんです。それは現場にいないと分かりません。だから現場を知ることはとても大切だと思います。
それに、現場に長く入らないと、面談してもパートさんの言っている意味が理解できなくなる。一緒に現場で働いているからこそ、従業員同士の空気感や作業の工程などに関する意見を、私自身が理解できていると、いまは実感しています。
―― 現場に入るというのは日本に多い、プレイングマネジャー的な「手が足りないから入る」わけではなくて、マネジメントするために入っているんですね。
お聞きしていると強い“支配型”のリーダーシップを発揮するというよりは、「リーダーはまず相手に奉仕し、その後相手を導くものである」という「サーバント型リーダーシップ」を発揮されている印象ですが、どうやって組織全体の力を上げていますか?
チーム力を高める工夫はルールづくり
武藤 僕は「人は争う生き物」だと思っています。だから、どうやったら争わずに協力して持っている力を発揮できるかを追求し、そのためのルールはいっぱいつくります。
ルールの変更を箇条書きにしているノートがあって、コロコロ内容が変わるのでそれをみんなに読んでもらっています。
例えば先日、6カ月休んだ後に退職した人がいました。6カ月来ないこと自体、僕はオッケーですが、パートさんの中ではモヤモヤする人もいます。だから、「今度からは1カ月休むときは事前に報告する」というルールにしました。
―― 問題を見つけたら、解決するためのルールをつくるのですね?
武藤 そうですね。みんながモヤモヤしないようにルールをつくります。
うちの会社は細かいルールがいっぱいありますが、僕がつくるだけではなく、パートさんたちもつくっています。「こういうルールがほしい」「こういうルールがあると争わない」とパートさんがいう。「じゃあ僕がそれを形にします」というシステムです。
そうすると、みんな、ルールを破りません。人は、自分でつくったルールは守るんです。
だけど、僕が一方的にこうした方がいいと決めたら、それが正しかったとしても、「上から押しつけられたルール」だと守りたくなくなる。パートさんからしたら、「全部あの人の言うとおりにするのは、なんかちょっとモヤモヤする」んです(笑)。
そうじゃなくて、「みんなが必要だから、自分たちでつくった」という納得感が必要で、そうすれば「自分たちでつくったんだから、じゃあ守ろう」となって、悪意を持って破ることはなくなります。天然で破っちゃう人はいっぱいますけどね。悪意なく間違えてしまうとか。でも基本的には破らない。
そういうことは、工場の中ではすごく大切です。悪意を持って破ることで存在感を示したりとか、プレッシャーを与えたりしようとすることが現場では起こりがちなので。それがないというのが、うちで効率が上がったり品質が上がったりする大きな要因かなと思います。
―― 反対に、せっかくルールがあっても、悪意を持って破ったり、守らなかったりすることは、効率を落とすことにつながりますか?
武藤 そうですね。あるものを守らない、わざと破る。そういう状況ではみんな不満でモヤモヤしまくりですよね。
とはいえ、そうならないようにと何か起こる前にルールをつくってしまうのも最悪です。経営者は“疑う生き物”ですが、それでは従業員の個性を生かせません。会社にとってデメリットです。
ルールとは、会社の効率を上げるための手段ではないのです。あるルールで会社の効率が上がっても、人間関係が崩れるくらいなら、捨てた方がいい。人間関係が崩れていると、大きな視野で見たときには、会社の効率は落ちているんです。そうではなくて、あくまで働く人の中から「こうした方がいい」という声が出て、それを仕組み化することが大切です。
例えば最近も、古いパートの人と新しいパートの人で、ちょっとした問題が起きました。
というのも、新しく入ったパートの人は、フリースケジュールができてから入ってきたので、制度をフル活用します。反対に、古い人は普通の働き方にちょっと自由を加えた感じで使用しています。だから、新しい人がどんどん自由に働くと、昔からいる人たちは違和感を覚えてしまうんです。
そういうことがあったので、古い人だけを集めてミーティングをしました。「フリースケジュールは会社が決めていることで、皆さんが判断することではありません。古い人も自由にやっていいのですから」と伝えて、ルールを徹底しました。
実際、長い人の中でも、新人さんのような働き方がいいと思っている人もいたんです。そういうふうに、現場がもやっとしていても、会社がちゃんとルールを明確に説明すれば次の進化があります。
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