うちの会社も「好きな日に出社し、嫌いな仕事はやらなくていい」働き方はできますか? “自由すぎるエビ工場”のトップを直撃:本気で社員を幸せにする会社(3/3 ページ)
「好きな日に働き、嫌いな仕事はやらなくていい」――。そんな働き方をしているにもかかわらず、業務がうまく回っているエビ加工工場「パプアニューギニア海産」。なぜ、この工場は「到底できそうもない働き方」ができるのか。
やりがいは「働きやすさ」についてくる
―― ここまでフリースケジュール、好き嫌い表、ルールづくりと3つの仕組みについてお聞きしたのですが、共通しているのは、とにかく「働きやすさ」を高めるということでした。一方、会社には「やりがい」を求める傾向もあると思うのですが、そちらに関してはいかがですか?
武藤 僕が求めているのは、徹底して「生きやすさ」のほうですね。やりがいとよくいわれますが、人間関係の方が重要で、仕事の内容は実は何でもいいのではないかとさえ思っています。ギスギスしていたり、その場にいるのが嫌だとか、そういうのは全て会社にとってマイナス。それを一つずつ取り除いていく。そうして職場の人間関係とか空気を良くしておけば、その中に自然とやりがいが出てくるのではないでしょうか。
例えばうちの会社の大前提は、「自分の友達や家族に食べてもらいたいものを作る」ということです。他にも、工場で合成洗剤を使わないとか、薬品や添加物を使わないとか、働く人にも社会にも理不尽なことをしないとか。そういう積み重ねで、うちの会社で働いていることを自慢できるようにすれば、自然とやりがいが生まれるかもしれません。その程度の期待でいいと思いますし、究極は、やりがいはなくても、苦しまず一生懸命やってくれればそれでいい。
―― 働く人は、やりがいを一番に求めているわけではないということですか?
武藤 そう思います。「子どものときの夢がかなっているか」とか「ロマンがあるか」とか「自分らしいか」とか、毎日それを考えて生きる方が生きづらいと僕は思うんです。
そもそも、働く全ての人が「ものすごく幸福度の高い働き方」を求めているわけではないですよね。平凡でいい人も多いし、その平凡も、自分にとって「マイナスでなければいい」という考えの人も多いでしょう。
しかし、現実を見渡すと、“マイナスではない”会社はけっこう少ないんです。特にパートさんの多い会社はその傾向が強くて、スタートのレベルが低いといえば低いんですよね。だからこそ、僕は、まずは「マイナスではない職場」にすること、それを安定して継続することが大事だと思っています。
―― 最初に働き方を大きく変えたときは、武藤さんの勇気も必要だったと思います。受け入れられるのに時間もかかったのではないですか?
武藤 もちろんです。最初は面談をしても疑われていました。でも、いきなりフリースケジュールにしたことで、こちらの本気度が伝わったようです。
最初は大変でしたけど、いまはパートさんが自由にやっているからこそ、僕だって、社員が2人しかいないのに今日も東京に来られています(笑)。そういう意味では、会社全体がみんなの働きやすさを求めているから、経営者の本気度が伝わったら後はスムーズにいった、という点はあると思います。
―― 最後に、自分の会社に合った働き方を見つけたとして、そちらに舵を切るときに、経営者として一番大切なことがあるとしたら何でしょうか?
武藤 「働き方を考えるときは、自分がいっぱいいっぱいだと難しい」ということでしょうか。自分がいっぱいいっぱいのときに、人のことを考えるのは難しいですよね。だから、経営者として余裕があるときに踏み切るべきです。
また、僕は経営者としては、大きくすることよりも継続することを意識しています。
実は最近の多くの経営者は、あまり無理な拡大を求めていない気がしています。僕もそれでいいと思っています。「いい状態を継続する」ことが大切です。いい状態を崩すぐらいなら、大きくしない方がいいとさえ思っています。
だから、「会社をよくしていきたい、そのためにこう変えたい」と思ったら、まずはその姿勢を働く人に伝えることですよね。
そう考えている本気の姿勢が働き手に伝われば、それが成功の第一歩です。たとえ失敗してもそれが成功につながります。
もちろん、会社は基本的には効率を追い求めています。だけど、多くの会社は効率化するために働き方を変えようとするからうまくいかない。「生産性を上げるために、残業を減らします」といっても、実態は残業しなければ回らない仕組みになっているのが、多くの日本の会社の現実です。
そうではなくて、最終的な効率を求めるからこそ、先に働き方を考える。「皆さんがより働きやすいように、好きなときに働いて、好きなときに休んでください」と言ったら、結果として生産性が上がったんです。
だからまずは、「会社をこう働きやすくしていきたい」という姿勢を働く人に伝える。そうすれば、そこから会社は変わり始めます。
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