「大麻合法化しようぜ」に感じる“胡散臭さ”の正体 医療大麻の論点とは:世界を読み解くニュース・サロン(5/5 ページ)
有名人が大麻で逮捕されるたびに、日本でも「合法化」が議論になる。だが、医療大麻の話を持ち出す容認派には、医学的な根拠を示して真剣に議論する姿勢が感じられない。医療大麻ビジネスに乗り出しているイスラエルでは、薬剤として適切に取り扱う体制がある。
「合法化しようぜ」発言は迷惑
大麻は日本では違法であり、ほとんどの人がその作用などについて知らない。例えば、米国の心理学専門誌『サイコロジートゥデイ』に寄稿した、精神衛生や依存症などが専門の米心理学者によれば、大麻を使用すると「ハイになる」「幻覚を見る」「心配性になったり被害妄想が表れたりする」「精神病の症状が出る可能性が高まる」「心臓病や脳卒中のリスクが高まる」「男性機能の低下」といった影響がある。また長期で使用すると、「依存」「IQの低下」「学校や職場でのパフォーマンスの低下」「人間関係に問題が生じる」「反社会的行動」といった影響が出る可能性があるという。
とにかく、「合法化しようぜ」といった類の発言は、大麻を医療目的で必要としている人たちには、はっきりいって「いい迷惑」以外の何ものでもない。ファッション的な側面、ヒッピー的な人たちの観点から議論の具にしているにすぎず、従来の違法薬物というダークなイメージがいつまでも消えないからだ。要は、医療大麻を合法化しているような国々で医療的に議論されてきたような、大麻本来の有効性について真剣に検討する姿勢を感じられない。
そして「合法化しようぜ」という発言に同調している容認派たちもいるらしい。こうした人たちは、自分たちの言動が、本当に医療品として大麻の鎮痛成分などを必要としている人たちから選択肢を奪っていることに、そろそろ気が付くべきではないだろうか。
筆者プロフィール:
山田敏弘
元MITフェロー、ジャーナリスト・ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。最近はテレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。
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