「無期雇用はお勧めできません」――ある派遣社員が法改正に翻弄された現実:「改正派遣法」が派遣社員を守っていない(5/5 ページ)
ある30代の派遣社員女性に突き付けられた現実――。派遣社員を守るために設けられたはずの「改正派遣法」が、当事者を望まない方向に追い込んでいた実態が浮かび上がる。
「雇い止め社会」を回避するために
一般社団法人日本人材派遣協会によると、17年1月から3月までの平均の派遣社員数は約129万人だった。雇用者全体に占める派遣社員の割合は2.4%だ。パート社員や契約社員が激増したことで、非正規で働く有期雇用者の割合は現在雇用者全体の37.3%を占めている。一方で派遣社員の割合はここ10年間は大きな変化はない。Aさんのように、派遣社員として長期にわたって働いている人が多いとみられる。
改正派遣法は雇用の安定とキャリアアップを義務化している点で、派遣社員の待遇改善が目的のはずだ。しかしAさんの事例では一歩間違えば不利益を被る可能性があったように、実際には法改正の趣旨とは異なる事態が起きている場合も考えられる。
その原因はいくつか考えられる。1つには先述の調査にもあったように、改正派遣法の周知が十分ではないこと。働く人だけでなく、派遣先の企業、派遣会社の三者が正しく理解して話し合わなければ、円満な契約に至るのは難しいだろう。
もう1つは、派遣先企業と派遣会社の態度によっては、必ずしも働く人が守られない点だ。改正派遣法は、派遣会社と派遣先企業が取り組むべき内容を定めている。しかし、その二者の交渉次第で、働く人が望んでいないのに派遣先の変更や雇い止めが起きる可能性があるのだ。
非正規で働く人の環境を改善することは、18年に成立した働き方改革関連法でも重要なポイントとなっている。特に、雇用形態に関わらず公正な待遇の確保を目的とした「同一労働同一賃金」は、大企業で20年4月から、中小企業で21年4月から導入される予定だ。(関連記事)。
ただ「同一労働同一賃金」が導入される際に、非正規で働く人の雇い止めなどが起きる可能性も否定できない。雇い止めを防ぐためには、雇用の安定がまず確保される必要がある。そのためにも改正派遣法や改正労働契約法の趣旨が守られているのかどうか、実態把握と検証をする必要があるのではないだろうか。働く人を守るはずの法律が、真逆の事態を起こさないために、対策は急務だ。
著者プロフィール
田中圭太郎(たなか けいたろう)
1973年生まれ。早稲田大学第一文学部東洋哲学専修卒。大分放送を経て2016年4月からフリーランス。雑誌・webで警察不祥事、労働問題、教育、政治、経済、パラリンピックなど幅広いテーマで執筆。「スポーツ報知大相撲ジャーナル」で相撲記事も担当。Webサイトはhttp://tanakakeitaro.link/
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