「がんになりました」――そのとき会社は? 中京テレビが示した一つの“答え”:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(4/4 ページ)
中京テレビが放送した、アナウンサーの「乳がん闘病記」。「抗がん剤治療をしながらキャスターを続けたい」と希望した社員に対し、会社はどのように対応したのか。“病と生きる時代”に、治療と仕事を両立させる意義とは?
成熟した組織が人を“生かす”
さらに、その後の研究で、他者との関係を「広さ」で捉え、HOPEとの関連を検討したところ、「喜びや悲しみを共にできる関係性が、家族だけではなく、医師・介護者などの医療関係者、友人・知人など、外部に広がるほどHOPEが高い」ことも分かりました。
件の番組の中で「治療優先」と言い切った人事部長や、「体も心も含めてイキイキと生きられるかを考えた」と語った番組プロデューサーも、恩田アナがHOPEを見つけるきっかけになったに違いありません。そして、こういった意見交換ができる成熟した組織風土が人を“生かす”のです。
今回の番組が単なる「感動物語」ではなく、仕事が「生きる力」にもたらす意味、そして、がんと仕事と両立させることの意義を議論するきっかけになればいいと心から期待しています。
ちなみに……、1年前の中京テレビの定例会見の資料には、以下のようなことが書かれていました。
新・社会貢献活動の立ち上げ
- 乳がん啓発活動「ススメ」
社内に女性中心のプロジェクトを立ち上げ。乳がんについて正しい知識を伝えると共に40代以上の女性に検診を呼びかけることで、早期発見を促し、乳がんで悲しむ人を減らすことを目指す。
1人の社員の問題を会社の問題と捉え、社会の問題として広めていく――。とっても、イイです!
河合薫氏のプロフィール:
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)
お知らせ
新刊『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)が発売されました!
2017年発売の『他人をバカにしたがる男たち』で解説した「ジジイの壁」の背景となる「会社員という病」に迫ります。
“ジジイ”の必殺技は「足を引っぱる」こと。公の場で「彼女の発言を補足しますと……」と口を挟んでしまう“面目つぶし”、「私は指示したのですが○○が動かなくて……」と相手を悪者にする“責任逃れ落とし”、他人に関する必要のない情報を上司に伝える“アピつぶし”、そして“学歴落とし”や“悪評流し”――。
不毛な言動に精を出して「ジジイ化」してしまう人たちのジレンマと不安の正体について解説します。
関連記事
- 中京テレビの「2次会強要禁止」、“飲み会も仕事のうち”は変わるのか
上司による2次会参加の強要禁止、社長の一言を廃止――。中京テレビが発表した働き方改革が話題になっている。一見、生産性とは関係なさそうだが、これまでの「当たり前」を問い直すという、本当の働き方改革につながる。なぜなら……。 - 「もう、諦めるしかない」 中高年化する就職氷河期世代を追い込む“負の連鎖”
40歳前後になった「就職氷河期」世代に対する支援に、国を挙げて取り組むことを安倍首相が表明した。しかし、就職時の不況や非正規雇用の拡大など、さまざまな社会的要因によって追い詰められた人たちの問題は根が深い。実効性のある支援ができるのか。 - 「1カ月の夏休み」は夢? 日本人の“有給の取り方”がズレている、歴史的背景
月曜を午前半休にする「シャイニングマンデー」。経産省内で検討していると報じられたが、そんな取り組みは「無駄」。日本人は、世界では当たり前の「有給休暇をまとめて取る」こともできていないからだ。なぜできないのか。歴史をさかのぼると……。 - 「会社員消滅時代」到来? 令和時代の“自由な働き方”に潜む落とし穴
平成30年間で会社の「働かせ方」は変わり、働く人との“信頼”は崩壊した。令和時代の働き方はどうなるのか。政府が公表している報告書を読み解くと、「自立」という美しい言葉が目立つ。だが、そこには落とし穴があって……。 - パタハラ回避で50代が転勤? カネカ騒動が示した“辞令と家族”のリアル
カネカの「パタハラ」騒動は、SNSに書き込んだ側も炎上するなど、さまざまな見方が出ている。一方、本来は個人の成長にもつながる「転勤」がネガティブに捉えられた。育児だけでなく「介護」とも密接に関わる転勤。そのメリットを生かす経営が求められる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.