「がんになりました」――そのとき会社は? 中京テレビが示した一つの“答え”:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/4 ページ)
中京テレビが放送した、アナウンサーの「乳がん闘病記」。「抗がん剤治療をしながらキャスターを続けたい」と希望した社員に対し、会社はどのように対応したのか。“病と生きる時代”に、治療と仕事を両立させる意義とは?
3割以上が「がん診断後に退職」
「がんと診断後に依願退職や解雇になった人」の割合は34.6%(2013年調査)で、「がん等私傷病に罹患した従業員に対する柔軟な雇用体制」を提示しているのは16%(労働者健康福祉安全機構調べ)です。社員に「がん罹患者への配慮内容等の教育」を行っている企業は、わずか1%。今や、がん患者の3人に1人が働く世代(15〜64歳)にもかかわらず、です。
私がこれまでインタビューしてきた700人超の中にも、「がんにかかったこと」を会社に告げられずにいる人たちが何人もいました。勇気を振り絞って上司に告白したところ、退職に追いやられた人もいました。
健康な人にとって「仕事」はしんどいものであったり、つまらないことであったり、できればサボりたい作業だったりもします。健康体でいると当たり前のように「社会との接点」が存在し、仕事がその大きな役目を担っている事を忘れがちです。
しかしながら、生きるということと真剣に向き合うようになった時、仕事は生きる動機になる。仕事は「社会との接点」であり、社会の一員でいたい、社会で役割を持っていたいという欲求が極めてシンプルかつ純粋に「働く」という行動に転換され、“HOPE”をもたらし、生きる力を高めてくれるのです。
「HOPE」とは、「逆境やストレスフルな状況にあっても、明るくたくましく生きていくことを可能にする内的な力」で、心の底に秘めているいわば人生の「光」です。しかしながら、「HOPE」は“そこにある”ことに気付き、自分で“パンドラの箱”を開けないとダメ。
では、人はいったいどういうとき、HOPEに気付けるのか――? それが長年、心理学者や哲学者、社会学者たちの疑問でした。
そして、長い年月をかけて議論され、研究が重ねられた結果、他者との関係性、大切な家族、友人、異性といった、自分を大切に思ってくれる人、自分自身が大切に思う人など、他者の存在との関わりの中で見いだされることが分かりました。
私たちの研究(東京大学大学院健康社会学教室)でも、「信頼できる人」がいることでHOPEが強まる傾向が認められています。
関連記事
- 中京テレビの「2次会強要禁止」、“飲み会も仕事のうち”は変わるのか
上司による2次会参加の強要禁止、社長の一言を廃止――。中京テレビが発表した働き方改革が話題になっている。一見、生産性とは関係なさそうだが、これまでの「当たり前」を問い直すという、本当の働き方改革につながる。なぜなら……。 - 「もう、諦めるしかない」 中高年化する就職氷河期世代を追い込む“負の連鎖”
40歳前後になった「就職氷河期」世代に対する支援に、国を挙げて取り組むことを安倍首相が表明した。しかし、就職時の不況や非正規雇用の拡大など、さまざまな社会的要因によって追い詰められた人たちの問題は根が深い。実効性のある支援ができるのか。 - 「1カ月の夏休み」は夢? 日本人の“有給の取り方”がズレている、歴史的背景
月曜を午前半休にする「シャイニングマンデー」。経産省内で検討していると報じられたが、そんな取り組みは「無駄」。日本人は、世界では当たり前の「有給休暇をまとめて取る」こともできていないからだ。なぜできないのか。歴史をさかのぼると……。 - 「会社員消滅時代」到来? 令和時代の“自由な働き方”に潜む落とし穴
平成30年間で会社の「働かせ方」は変わり、働く人との“信頼”は崩壊した。令和時代の働き方はどうなるのか。政府が公表している報告書を読み解くと、「自立」という美しい言葉が目立つ。だが、そこには落とし穴があって……。 - パタハラ回避で50代が転勤? カネカ騒動が示した“辞令と家族”のリアル
カネカの「パタハラ」騒動は、SNSに書き込んだ側も炎上するなど、さまざまな見方が出ている。一方、本来は個人の成長にもつながる「転勤」がネガティブに捉えられた。育児だけでなく「介護」とも密接に関わる転勤。そのメリットを生かす経営が求められる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.