「がんになりました」――そのとき会社は? 中京テレビが示した一つの“答え”:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/4 ページ)
中京テレビが放送した、アナウンサーの「乳がん闘病記」。「抗がん剤治療をしながらキャスターを続けたい」と希望した社員に対し、会社はどのように対応したのか。“病と生きる時代”に、治療と仕事を両立させる意義とは?
中京テレビが示した「病と生きる時代」の働き方
「抗がん剤治療をしながらキャスターを続けたい」という恩田アナに対し、人事部長(当時)は「副作用がどうなるか分からない中で、そこで出演するという選択肢は人事部としてはない。治療優先」と回答。
一方、番組プロデューサーは「番組のために復帰してほしい、と思っていたわけではなく、休み続けることが彼女のためなのか、それとも戻る場所に戻って頑張ることが彼女を支えることになるのか。どっちの方が、体も心も含めてイキイキと生きられるかを考えたときに、仕事をしながらの方がいいんじゃないかと、彼女と話していて考えた」という意見でした。
その結果、恩田アナは番組を「降板」するのではなく、「無期限の休養」という形をとり、治療に専念。副作用は想像以上に苦しく、髪の毛も抜け落ちました。
そして、抗がん剤治療が終わって体調が戻り、彼女は「ウィッグ」をつけて番組に復帰したのです。画面に映る恩田アナの表情はイキイキとしていました。
……そうです。これです。これぞ「合理的配慮(reasonable accommodation)」。「病と生きる時代」の働き方です。
合理的配慮とは、「ここを配慮してくれれば、ちゃんと働けるよ」といった考え方で、米国で1990年に制定されたアメリカ障害者法(ADA)の中核概念です。この合理的配慮が徹底されれば、がんを患っても働き続けることが可能なのです。
例えば、従業員が医療機関などの証明をベースに、「抗がん剤治療の日は休みが必要だし、治療後3〜4日は免疫力が下がるので、自宅勤務が必要」と声を上げれば、企業はその従業員に便宜を図らなければなりません。
米国では合理的配慮が企業の義務として課され、罰則規定も存在するため、がんで離職する人は極めて低く抑えられています。
一方、日本ではどうでしょうか?
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