トヨタ、EV“中国シフト”の陰に潜む「意外で重大なリスク」とは:“いま”が分かるビジネス塾(3/3 ページ)
トヨタがEV分野で中国シフトを進めている。中国の車載電池メーカーと提携する。その陰には意外で本質的なリスクが……?
自動車業界の「垂直型」システムに異変も
今後、自動車業界は、EVシフトによって産業構造が激変する可能性が高い。内燃機関を中心とした時代においては、多数の部品メーカーをグループ内に抱え、垂直統合システムを形成することにメリットがあった。しかしEV時代においては、汎用化とオープン化が進むので、水平統合システムの方が圧倒的に有利になる。
水平統合システムの典型的な例と言えばIT業界だ。同業界で特定の基幹部品が寡占市場となるのは珍しいことではない。市場全体として大きな問題は起こっていないので、自動車業界も同じ展開になるのだとすれば、特定部品が寡占されること自体は大きなリスク要因とはいえないだろう。
しかしIT産業の水平統合化は、極めて大きなインパクトを市場にもたらし、多くのメーカーが市場からの退出を迫られた。水平分業の産業構造ではコストは極限まで下がる可能性が高く、自動車の販売価格は安くならざるを得ない。そうなると規模のメリットが極めて重要となり、上位グループに入れないメーカーは、かつてのPCメーカーと同様、淘汰されるリスクが高まってくる。
水平分業時代に生き残れるのは、安価な製品を大量に生産するメーカーか、自動運転システムやシェアリングなど、ITを駆使した高付加価値サービスを提供する企業のどちらかである。トヨタはおそらく後者を目指すことになると思われるが、そのためには抜本的な組織の再編が必須となる。特定部品を中国メーカーに握られることよりも、巨大な垂直統合グループを形成するトヨタが、水平統合モデルにスムーズにシフトできるかどうかという点の方が、圧倒的に重要な経営課題といってよいだろう。
加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)
仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。
野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。
著書に「AI時代に生き残る企業、淘汰される企業」(宝島社)、「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。
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