高度化する“監視”の目 「顔認証」が叩かれるワケ:世界を読み解くニュース・サロン(5/5 ページ)
どんどん進歩する「顔認証」技術。犯罪捜査などで役立っている一方、人権侵害や乱用の懸念も広がっている。今、世界でどんな議論が起きているのか。そして、私たちは顔認証技術の拡散をどう捉えていくべきか。
顔認証技術で評価される日本企業
日本では、20年に開催される東京五輪で顔認証が使われることになる。設置場所は、40以上もの競技場や選手村、メディアセンター、宿泊施設など数百カ所だという。選手やスタッフ、ボランティアなど大会に携わる約30万人を対象にする。
この技術を支えることになるのが、NECだ。
NECは世界的にも顔認証の評価が高い。同社のWebサイトによれば、「NECは、世界的権威のある米国国立標準技術研究所(NIST)が実施した動画顔認証技術のベンチマークテスト(FIVE)において、照合精度99.2%と他社を大きく引き離す第1位の性能評価を獲得しました」と発表している。しかも4回連続で1位を獲得しているという。ちなみに、動画顔認証技術は、カメラを意識することなく動いている対象の顔をリアルタイムに認証するものだ。
また東京の羽田空港には、パナソニックの顔認証システムがある。関西空港や中部空港、福岡空港などでも順次導入される。
ただこうした使い方は、監視などとは違うために、批判は起きていない。どちらかといえば、歓迎されているようだ。
日本には世界最高の顔認証技術力を誇る企業が存在する。そして、法的にみると、個人情報保護法があり、むやみに監視カメラで撮影した人物などのデータを他人に渡したりするのに規制がある。とはいえ、空港だけでなく、万引き対策として書店が顔認証を導入しているケースなどもある(ちなみに書店での顔認証はその人の思想・信条・趣味嗜好が分かってしまうプライバシー侵害だという議論も出ていた)。
警察には、監視カメラの画像を拾って顔認証で分析するシステムがある。ただ、まだ市街地など広い範囲でリアルタイムの顔認証は使われていないために、日本ではほとんど議論されていない。とはいえ、これから空港や駅、道路、バス停、小売店、レストランなどに監視カメラが増えて顔認証を使う便利なサービスが広がれば、気が付けば、至る所に顔認証を導入した監視カメラなどが設置されている、ということになる可能性は高い。5Gの時代になれば、そのような社会になるだろう。そうなれば、警察の捜査や公安の監視などにも使っていこうという動きが出てくるかもしれない。
日本は、防犯や監視などに使えるとして顔認証を導入している国々で起きている動向や議論を、じっくりと見ておいたほうがいいかもしれない。そう遠くない将来、日本もそこら中に顔認証技術があふれ返ることになるからだ。
筆者プロフィール:
山田敏弘
元MITフェロー、ジャーナリスト・ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。最近はテレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。
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