高度化する“監視”の目 「顔認証」が叩かれるワケ:世界を読み解くニュース・サロン(4/5 ページ)
どんどん進歩する「顔認証」技術。犯罪捜査などで役立っている一方、人権侵害や乱用の懸念も広がっている。今、世界でどんな議論が起きているのか。そして、私たちは顔認証技術の拡散をどう捉えていくべきか。
サンフランシスコで「使用禁止」決定
このままこの技術の拡散を放っておいたら、政府や当局の都合のいいようにどんどん監視カメラや顔認証が広がっていくことになる。確かに、人々の行動を全て把握できてしまう技術があまり議論もないままに拡散されるのは気持ちいいものではない。
そんな背景から、米サンフランシスコ市の監督委員会は5月14日、顔認証技術が乱用される可能性が否定できないとして、警察などの顔認証技術の使用を禁止する決定を下した。このニュースは、イノベーションの中心地だったサンフランシスコが、テクノロジーの発展を阻止することになるとして話題になった。
サンフランシスコの決定は、全米の大都市では初めてだったが、これに触発され、リベラルな街として知られる地域が次々と禁止措置を発表している。例えば、マサチューセッツ州サマービルが禁止を決め、カリフォルニア州オークランドなども後に続きそうだ。さらにサンフランシスコを抱えるカリフォルニア州は、州全体での禁止を検討している。
ただ一方で、多くの地域で警察当局が、軽犯罪容疑者や大量殺人の犯人を探すのに顔認証が使えると考えていた。例えば、18年6月、メリーランド州アナポリスにある新聞社で銃撃事件が発生。ショットガンを持って襲撃した犯人が5人を殺害した。犯人はすぐに捕まったが、完全黙秘を貫いた。指紋もマッチしなかったが、顔認証システムによってすぐに犯人の名前や素性が判明することになった。
顔認証は米国で事件の解決に貢献しているのだが、それでも、それ以上に個人の人権が脅かされる懸念があるとして反発が巻き起こっているのだ。
米国では、「GAFA」の一角であるネット通販大手Amazon(アマゾン)も顔認証技術「Rekognition(レコグニション)」を開発し、すでに各地で導入されている。ただこれについても物議になっており、そこでアマゾンは投資家たちに、同社が顔認証テクノロジーの販売を政府や警察当局に対して続けるべきかについて、賛否の投票をさせた。その結果、引き続き販売することになった。
米議会でも5月、共和党と民主党の超党派の連邦議員が、顔認証テクノロジーがきちんと規制されなければ、市民の権利を侵害する可能性がある、と懸念を明らかにしている。何ら対応をせずに、使える技術としてあちこちで導入されるのを放置しておけば、「抑圧的な監視体制」につながるという声もある。
とにかく、顔認証技術をどう扱うかの熱い議論が、世界では行われているのである。では翻って、日本はどうだろうか。
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