2015年7月27日以前の記事
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高度化する“監視”の目 「顔認証」が叩かれるワケ世界を読み解くニュース・サロン(3/5 ページ)

どんどん進歩する「顔認証」技術。犯罪捜査などで役立っている一方、人権侵害や乱用の懸念も広がっている。今、世界でどんな議論が起きているのか。そして、私たちは顔認証技術の拡散をどう捉えていくべきか。

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高度な顔認証技術に「人権侵害」の懸念

 しかし、である。その実力ゆえに、市民からは不安や反発の声が上がったのである。人権団体は、収集されたデータが流出したり、当局などに悪用されたりする可能性があるとし、だからこそ、カメラの設置場所などの公表や、運用に関するきちんとしたアセスメントとルール作りを求めた。

 ここで明確にしておくが、ファーウェイのテクノロジーが非常に優れたものなのは間違いないのだろう。だからこそ、すぐに容疑者も見つけることができたし、当局が導入を決めた。

 ただこのファーウェイの顔認証については、同社が米国やその同盟国から最近締め出されつつあるのと同じ構図であることを簡単に記しておきたい。米政府などが排除しているファーウェイの通信機器やスマホなどのクオリティーは申し分ない。ただその技術をどう「獲得」し、なぜ他よりも「格安」で提供してシェアを広げることができたのか、ということが、米国による同社締め出しの根底にある。米中貿易交渉でも議題になっている「知的財産権の侵害」と「(政府による)産業補助金」だ。

 要は米国は、中国が知的財産を盗んで技術を「獲得」し、値段を下げてシェアを広げる競争力の背後には、中国政府の「補助金」があると糾弾しているのである。そして、こうした手段でシェアを広げると、通信機器を通じて中国政府にさまざまな情報が盗まれるという。

 ファーウェイの顔認証技術に対しても、米国の認識は同じようなものであると言っていい。ちなみに、日本企業などの知的財産も例外ではないだろう。筆者の取材では顔認証技術を含め、日本が研究開発しているテクノロジーが盗まれているケースはいくつも指摘がある。

 少し話が逸れたが、とにかく、セルビアではこの顔認証が物議を醸しているのである。そして議論はまだ続いているという。

 言うまでもないが、精度の高い顔認証技術は、スマホで使われるだけでなく、空港や警察の犯罪捜査などに適切に使えば非常に便利なものである。だが実は今、じわじわと世界に広がっている顔認証が、人権侵害ではないかという声があちこちで上がっている。

 また、“間違い”だって起きるのではないかと指摘されてもいる。顔認証に信頼しすぎることで、冤罪が起きることだってあり得る、と。例えばロンドン警視庁は、顔認証システムを導入し、ここ3年間で10件のイベントで使用したが、まだテスト段階ということを踏まえても、あまりに誤認が多いと批判を受けている。8割が間違いだったとの報告もある。

 今後、警察が体に装着したカメラに顔認証システムを導入し、目の前にいる人たちを誤って認識して緊急の対応をすれば、トラブルが起きるのは目に見えている。そうした懸念も出ているのである。

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