高度化する“監視”の目 「顔認証」が叩かれるワケ:世界を読み解くニュース・サロン(2/5 ページ)
どんどん進歩する「顔認証」技術。犯罪捜査などで役立っている一方、人権侵害や乱用の懸念も広がっている。今、世界でどんな議論が起きているのか。そして、私たちは顔認証技術の拡散をどう捉えていくべきか。
中国に隠れるひき逃げ犯を見つけた、ファーウェイの技術
最近、こんな興味深い話が米フォーリン・ポリシー誌に掲載された。タイトルは、「ビッグ・ブラザーがベオグラードに来た」というもの。「ビッグ・ブラザー」というのは、SF小説『1984』(ジョージ・オーウェル作)に登場する支配者のことで、「強権的な監視者」という意味がある。それが、セルビア共和国の首都ベオグラードにやってきたという。どういうことなのか。
記事は、ベオグラードで子供のひき逃げ死亡事故を起こした犯人が、そのまま中国に逃亡したという話から始まる。セルビア当局は、中国に犯人の顔写真を送った。すると3日間で、中国国内の「Sシティー」に潜伏していたひき逃げ犯を発見した。世界最大の人口を誇る中国で、3日で人を見つけ出すテクノロジーは称賛に値するだろう。ちなみにこの「Sシティー」は上海のことではないかと思われるが、中国のどこの街なのかは明らかにされていない。
そして実は、このテクノロジーは、世界的に東西を分断する企業として注目されている中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)が提供している。
ファーウェイは、通信機器やスマホだけでなく、顔認証の分野でも世界的に広く製品が導入されている。現在は非公開になっている同社の資料によれば、「ファーウェイは世界でも唯一、包括的な『セーフティ・シティー(安全な街)』ソリューションを提供するベンダーである」と書く。その上で、世界ですでに90の政府や地方政府のために230都市にこの「セーフティ・シティー」技術を導入していると喧伝(けんでん)している。当時の段階で、同社はロシアやマルタ、トルコ、ウクライナ、アゼルバイジャン、カザフスタンにもシステムを導入していた。
誰よりもこのひき逃げ犯のケースを見て驚いたのは、セルビア当局だった。そこでベオグラード市は、ファーウェイのテクノロジーを導入することに決めた。というのも、セルビアでは刑事事件の49%以上が未解決になっており、警察当局の能力には限界があったからだ。20以上のギャング組織が存在し、警察を狙う犯罪も増加していた。そこでベオグラード中の800カ所に、顔認証や自動車のナンバープレートを識別する監視カメラが設置されることになった。
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