スバルが生まれ変わるために その1:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/5 ページ)
筆者を、スバルは北米の有力ディーラーへと招待した。ペンシルバニア州アレンタウンの「ショッカ・スバル」は、新車・中古車を合わせた販売数で全米1位。新車のみに関しても、全米最多級である。「スバルは他と違う」と、この自動車販売のプロフェッショナルは、本気でそう思っている。けれど、具体的に何がどう違うのかが全く説明されない。北米ビジネスの成功について、何の戦略があり、何をしようとしているのか、それを知りたいのだ。
面白い戦略はあるのに……
話の途中で何度か引き合いに出て来た、プレオウンドカー(新古車)プログラムには何か秘密がありそうだ。これを会話ベースで書き記していくと、この原稿が全部埋まってしまうので、以下に内容を整理して記す。
ショッカ・スバルは、現在なんとネットワークの全店舗合計で175台の代車を保有している。それらはほぼ全て、最新モデルであり、車検や修理に来訪した顧客には最新のスバル車が代車として提供される。
狙いはいうまでなく、最新のスバル車の魅力を伝えることだ。新型に乗ったユーザーは、より新しいモデルの魅力に触れて、買い替えたくなる。スバルは現在、リセールバリューが高いので、手元のクルマを下取りに出せば、ローンの月額が変わらないまま、より高いグレードのクルマに乗り換えることが可能だ。
そうやって新車販売に貢献したあとの代車は、低走行の認定中古車として店頭に並ぶ、新車にあと少しで手が届かない顧客には、ちょうど良いスバリストへの登竜門になる。そして新古車を手に入れた彼らは、また修理や点検の時に最新型の代車に乗って新車へと乗り換えていく。スバルの北米法人「スバル・オブ・アメリカ」は、この代車プログラムを金銭的にサポートしている。
つまりショッカ・スバルにとって、代車は新車・中古車販売の最初のフックであり、そこから乗り換えのループが始まる。そうした人気に支えられるから中古車の残存価値が上がり、全てが上手く回るのだ。中古車の残存価値を高く保つためには、新車の値引きを行わないことだ。よっぽど特殊な限定モデルでもない限り、新車より高い中古を買う人はいないから、これは市場メカニズムとして当然だ。
新車が値引きなしで売れ、中古価格は高止まり、だからユーザーは次のクルマを購入する原資が豊かになる。そういうループである。自動車メーカーがいう「ブランド価値訴求」とは、原則的にはこういうことで、ものすごく簡略にいえば「いかに中古車価格を高く保つか」ということである。そのためにどうするか、選択肢ややれることは無限にあるはずだ。
今回の記事はそこにフォーカスしたいと言ったら、スバルのスタッフが少々口ごもりながら「いや、そのあたりはちょっと……」。嫌がるスタッフに根掘り葉掘り理由を聞くと、どうやら代車の大量確保について、ディーラーの水増し販売を勘ぐられたくないらしい。本当に販売台数を水増ししたくて代車の数を増やしているならともかく、明らかに戦略としての位置付けが違う話ではないか? 「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや(えんじゃくいずくんぞこうこくのこころざしをしらんや)」だ。お客様のクルマの価値を守る崇高な戦略を理解できず、品のない思考で批判したいヤツには言わせておけばいいではないか?
そんなことより、スバルが何を目指し、どういう努力をしているかを広く伝えて、知ってもらう方が企業戦略としてはるかに重要なはずだ。
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