スバルが生まれ変わるために その2:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)
北米での取材の途中、いくら議論しても結論は出なかった。そこで帰国後、スバル本社でもう一度取材を行う。しかし、本社に出向いても、結局のところスバル側に投げてあった「戦略があるかないか、あるなら具体的な戦略を教えて欲しい」という質問には明確な回答はなかった。スバルは変わらなくてはならないことをすでに十分分かっているはずだ。しかしながらその変革を実現していく組織改造が、まだ始まっていないのだと思う。
スバルはおそらく筆者にそこを見て欲しいのだと思う。しかしそれは、スバルの中の人たちの職分における個別の優秀性だ。そうした優秀な人材が成し遂げた仕事を束ねて、企業の力に変換する最も大事な部分は欠落しているように見える。
今回の取材で、筆者のあらゆる質問に彼らが何度も繰り返す回答は「安全性と耐久性」だった。全部それで説明しようとする。もちろん「安全性と耐久性」は、まごうこと無くスバル歴代の努力の賜だ。エンジニアたちが長年にわたって努力して築き上げてきたものだ。法的な規制が何もなかったスバル360の時代から、自主的に衝突試験を行ってきたその姿勢には頭が下がるし、心からリスペクトをささげたいと思う。
しかし、それ以外は明確な目的意識が結果につながったものではない。アウトドアの顧客を意図的に攻略しようという立案はあったのか? 世の中がそういう風潮になってから後押しはあったかもしれないが、それはやはり対症療法のようなもので、パッシブな動きだ。アクティブに現状を動かしてこそ戦略だろう。
ブランド価値販売の根幹は、中古車価格をいかに高く保つかだ。そのためには新車を正価販売しなくてはならない。値引きを大きくすれば、新車より高い中古を買おうとする人がいない以上、中古車価格は暴落する。
だから強い意志と綿密な戦略で、「市場の活況不況に影響されず、いかに値引きをしないで販売するか」を全社のリソースを集中してやり遂げなくてはならない。スバルは今、確かに北米でブランド価値販売が上手く回っているが、ではその結果をもたらしている主体が何かといえば、現場の奮闘であって、スバル大本営の努力ではない。
もし高い安全性と耐久性の評価だけで、ブランド価値が維持できるならば、スバルには創業以来安全性も耐久性もダメだった時代など無いはずだから、絶えることなくずっと輝くブランドであったはずだ。
が、しかし、現実に暗黒時代は何度かあった。それは中の人たちが一番よく知っているはずだ。だから、今100年に一度の幸運が訪れて、高いブランド価値が自然発生している間に、そのブランド価値を固定して維持するための戦略を早急に作り上げなくてはならないはずなのだ。
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