“上司なりすまし”被害も 深刻化する偽動画「ディープフェイク」の脅威:世界を読み解くニュース・サロン(4/4 ページ)
本物と見間違うような偽動画「ディープフェイク」が世界で問題視されている。最近では、FacebookザッカーバーグCEOの偽動画も話題になった。社長や上司になりすまして企業に電話をする「ディープフェイク音声」の被害も発生。日本でも注意が必要だ。
企業が被害に遭っている「上司なりすまし音声」
7月8日、英公共放送BBCが、ディープフェイクを使ったある犯罪が起きていると報じている。冒頭でディープフェイクにはいくつか種類があると書いたが、ここで言う「犯罪」は、映像ではなく、音声をAIで作り出すものだという。要は、ディープフェイク音声である。
どういう犯罪かというと、YouTubeやTedトーク、講演会などで得られる企業のCEOの声を拾って、数多くの単語などをバラバラに集めてAIに学習させ、本物のCEOの声のようなディープフェイク音声を作り出す。そして、部下の幹部などに電話をして、緊急で送金をするよう要求する。つまり、ネット上などですでに公開されている上司の声をAIで再現して、その声音で部下に命令を下す、という手口である。
最初にこの犯罪行為を報告したのは、米セキュリティ企業シマンテックだった。現時点では企業名は伏せられているが、BBCもシマンテックの報告をもとにディープフェイク犯罪を報じた。しかも、すでに3社の企業が被害に遭っているという。
こうした犯罪はおそらく、そう遠くない未来に日本にも入ってくるはずだ。個人や有名人だけでなく、一般企業も、今のうちからこうしたディープフェイクをめぐる国外の動きは把握しておいたほうがよさそうだ。被害が出てからでは遅いのだから。
筆者プロフィール:
山田敏弘
元MITフェロー、ジャーナリスト・ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。最近はテレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。
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