池澤夏樹が「人類の終末」を問い続ける意味:池澤夏樹インタビュー【中編】(5/5 ページ)
作家・池澤夏樹の重要な作品テーマの1つ、「科学」。池澤氏は「科学」の視点から小説、日本社会、そして人類の未来をどう見通してきたのか。3回シリーズの中編。
人類は本当に宇宙進出できるのか?
――SFが持つそういった想像力は、実は文学ファンだけでなく、今の日本で働き生きる私たちが、将来を考える上で必須な物のように思えます。SFはもっと読まれていいと。
池澤: そう思います。世間の肌合いが“SF的”になってきていますよね。僕らが実際にスマートフォンとか(最先端技術を)使っているのもあるけれど、自然との関係のやばさとか、科学へのリファレンス(参照、照合)で考えないと分からないことがどんどん増えてきている。
「宗教では駄目なんだろうな」ということも、あるのかもしれない。僕は必ずしも宗教を否定しないし、人間の心に合ったシステムとしてずっと役に立ってきた。宗教があることで強くなる人や、すがる人もいるでしょう。でも、それだけでは駄目なんだろうな、と。
(米国の有名作家)カート・ヴォネガットの小説の中で「人間が知っておくべきことはね、心のことは全部『カラマーゾフの兄弟』に書いてあるんだ。でも、もうそれだけじゃ足りないんだ」というせりふがある。この、足りない部分というのがサイエンスじゃないんだろうか。
――池澤さんの著作で他に頻出する科学的なモチーフとして、「宇宙からの視点で人間を見る」というものがあります。現実でも、Amazon創業者のジェフ・ベゾス氏など、アニメ『機動戦士ガンダム』ではありませんが、実際にスペースコロニーを作ろうという動きがあります。古典SFの世界そのものですが、人類はいずれ、本当に月や火星などに移り住むのでしょうか?
池澤: ……まず、世界が平和である、ということでしょうね。でなければ、そんなことをしている余裕が無いですよ。(人類間の)競争でできることではないだろうと。それから、「行くべきかどうか」。これは議論が分かれる。行きたい人が行けばまあいい訳です。
ちょうど新大陸に白人が行ったように、「(新天地に)出なくてはならない」ということ、それが明白な運命(マニフェスト・デスティニー)であると。そう言って彼らはインディアンを殺したんですけれど。「拡張する、広がっていくのがわれわれの本来の姿である。だから地球の次は火星だ」ということです。
しかし、(本当に)そうなのかな、と思います。想像するのは面白いし、例えば、『火星年代記』(火星での植民や戦争を描いたレイ・ブラッドベリのSF小説)は良い話でした。
でも、(実際に火星に)出ていくとしたらまずは研究者と探検家ですが、その後にコロニーが続くかどうか。地球は確かにあっという間にホモ・サピエンスが行く先々をいっぱいにしてしまったが、その先どうなるかは僕は分からないですよ。「やってみたら。僕はもう(その未来には)いないけどさ」と。
ただ、そうすると月を鉱物資源として使うとか、いろいろ絡んできて……。人間臭い話になってしまう。今のところは、月は南極と一緒で領土権の設定はされていないですけれどね。(移住は)不可能ではないでしょう。特に、月は水や鉱物資源があって、暮らしていけるかもしれない。
で、それが「何のため」と言ったときに、「それが人間の本然(ほんぜん)なのだ」というのなら、おやりなさいと。別に「それだけ」だったのなら、害はないのだから。
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