「表現の自由」を企業がどこまで守るか 8chan、愛知芸術祭に見るリスクと責任:世界を読み解くニュース・サロン(2/5 ページ)
愛知県・国際芸術祭の展示中止問題で「表現の自由」を巡る議論が盛り上がっている。米国でもネット掲示板「8chan」が一時停止に追い込まれた。企業の事業や自治体のイベントにも、表現の自由を巡るリスクが隠れている。どのように扱うべきだろうか。
バランス感覚を失った“芸術監督”
本題に行く前に、まず、同じジャーナリストという肩書で仕事をしている者として、芸術監督を担当したジャーナリスト、津田大介氏の今回の「活動」について少し触れたい。
「表現の自由」は民主主義の根幹をなすものであり、国民に与えられた基本的人権である。日本では誰でも、ヘイトスピーチや脅迫などを除けば、基本的に表現する権利を持つ。強権的・独裁的な国家とは違い、安易に制限されるものであってはならない。表現の自由が制限されることも、検閲も許されない。
その一方で、津田氏はジャーナリストという肩書の人が求められる役割を果たす必要があったのではないか。それは、物事をマス(大衆)に伝える際の、バランス感覚だ。どちらか一方の言い分を一方的に、大衆へ向けて扇動的に伝えるのはジャーナリズムではない。例えば、慰安婦を表現した少女像の隣に、慰安婦に関してはさまざまな議論や言い分があるとする注意書き、またはそれを表現する「芸術作品」を設置するのも一つの手だったかもしれない。
筆者は日本や米国、英国などのメディアで働いてきたが、こうしたバランス感覚というのは、ジャーナリストとして働き出したら最初に学ぶことである。津田氏は「ジャーナリストとしての自分のエゴだったのではないかとも感じています」と今回の騒動について述べているが、実際は、ジャーナリストという仕事を逸脱したことが原因だったといえないだろうか。
津田氏は少し前まで、「メディア・アクティビスト」と名乗っていた。あえて日本語に訳すなら、「社会的・政治的メッセージを伝えるために、メディアを活用する活動家」という意味になる。これならまだ理解できた。
いずれにしても、テロ予告や脅迫は絶対に許されるものではなく、そんな言動をした者については警察当局がきっちりと捜査してほしい。
関連記事
- 中国が握りたい「海底ケーブル」覇権 “ファーウェイ撤退”の本当の狙い
中国・ファーウェイを巡ってさまざまな動きが報じられているが、「海底ケーブル」ビジネスについてもひそかに注目されている。世界の通信を支える超重要インフラである海底ケーブルでも、中国と米国などの間で緊張感が高まっていくかもしれない。 - 慰安婦・徴用工の「強制」表現めぐり炎上 ジャパンタイムズが叩かれたワケ
日本のニュースを扱う英字新聞「ジャパンタイムズ」が、「慰安婦」「徴用工」に関する表現を変更すると告知して炎上。釈明する社告の掲載に追い込まれた。なぜ海外メディアから厳しく批判される事態を招いたのか。ジャパンタイムズに欠けていた視点とは…… - “上司なりすまし”被害も 深刻化する偽動画「ディープフェイク」の脅威
本物と見間違うような偽動画「ディープフェイク」が世界で問題視されている。最近では、FacebookザッカーバーグCEOの偽動画も話題になった。社長や上司になりすまして企業に電話をする「ディープフェイク音声」の被害も発生。日本でも注意が必要だ。 - スーツ姿のビジネスマンが「時代遅れ」になる日
米金融大手ゴールドマン・サックスが社内のドレスコードを緩めると発表した。米国企業では、職場の服装がカジュアル化しつつある。ビジネススーツが「過去の産物」となる日も遠くないかもしれない。 - 僕らのヒーローだったジャッキー・チェンが、世界で嫌われまくっている理由
香港アクション映画の象徴的存在、ジャッキー・チェンのイメージダウンが止まらない。隠し子である「娘」の振る舞いや、自伝で語られた「ダメ人間」ぶりなどが欧米やアジアで話題になっている。私たちのヒーローだったジャッキーに何が起きているのか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.