日本企業が欧米のアニメ・マンガ業界“支配”に挑む!? 相次ぐ買収劇に潜む「真の狙い」とは:ジャーナリスト数土直志 激動のアニメビジネスを斬る(3/5 ページ)
日本企業が欧米のオタクコンテンツ系企業を相次ぎ買収している。あまり話題にならないニュースだがアニメ・マンガ業界の大転換も。アニメ・映像報道の第一人者、数土直志氏が斬る。
米国でファンが培った市場に「後乗り」
これは米国における日本アニメ・マンガの時代の大きな変わり目を感じさせる。もともと米国の日本マンガ・アニメビジネスは、1980年代から2000年代初頭にかけて地元米国のファンが築き上げた面がある。今や1回で何十万人も集める巨大なアニメコンベンションや関連する企業も、熱心なファン活動から始まったものが多い。日本コンテンツは日本の企業側から積極的にプッシュするのではなく、ファン側が自ら開拓してプル型(ユーザーが能動的に動く)の発展を遂げてきた。
米国の古いアニメファンには、自国のアニメ文化は自分たちが築いてきたとの自負がある。「大企業は自分たちが作ったものに後乗りをしてきた」という意識が強い。
相次ぐ欧米の老舗コンテンツ企業の買収は、まさに大企業による後乗り戦略に当たる。市場が十分成長したところで、そのシステムをまるごと傘下に置く。その一角に日本企業も存在する。15年にDeNAがアニメ・マンガファンの巨大コミュティMyAnimeListを買収したのはその典型だ。現在は日本のデジタル出版流通のメディアドゥHDの傘下にあるMyAnimeListはアニメ・マンガファンの膨大な投稿から構成されているが、現時点で十分収益化できていないはずだ。それでも買収側は、大量のファンが集まるシステムにビジネスの可能性を期待している。なぜならそれは、日本企業には作れないものだからだ。
大企業が豊富な資金で時間や新しいアイデアを買い、新規事業立ち上げのリスクを低減するのは他業界、とりわけ海外でよく見られる。日本アニメ・マンガもそうした市場の原理と無縁ではない。
日本企業、かつて「現地法人」で失敗
相次ぐM&Aが示すのは、日本アニメ・マンガの海外事業のビッグビジネス化かもしれない。その背景には10年代に世界的に広がった人気もあるに違いない。日本企業にとっても海外市場はかつて考えられていたような“ちょっとしたボーナス”でなく、もはや「メインターゲット」として自ら貪欲に取りに行くものである。まさに米国、そして世界全体でも日本アニメ・マンガ業界のビジネスは大きな転換点にある。
逆に00年代半ばまでは、日本企業は海外進出にあたりゼロからビジネスを立ち上げるケースが多かった。VIZメディアやアニプレックス・オブ・アメリカといった成功例はあったが、ビジネスが続かず早々に撤退した例の方がむしろ多かった。直近で大胆なM&Aを実施したバンダイナムコHDとKADOKAWAに共通するのは、かつてこうした現地法人の立ち上げで失敗している点だ。
1998年に米国でアニメ・キャラクター事業を目的に設立されたバンダイ・エンタテインメントは2012年に事業を停止、05年に設立されたアニメ配給のバンダイビジュアル USAは08年に清算されている。00年代にアニメ事業で進出を目指したカドカワピクチャーズUSAも09年に事業を停止している。いずれも00年代後半の米国の日本アニメ不況の煽りを受けたが、その裏には企業体力の不足があった。その教訓を得ての現在のM&A戦略と言えるかもしれない。
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