日本企業が欧米のアニメ・マンガ業界“支配”に挑む!? 相次ぐ買収劇に潜む「真の狙い」とは:ジャーナリスト数土直志 激動のアニメビジネスを斬る(2/5 ページ)
日本企業が欧米のオタクコンテンツ系企業を相次ぎ買収している。あまり話題にならないニュースだがアニメ・マンガ業界の大転換も。アニメ・映像報道の第一人者、数土直志氏が斬る。
大手出版やアニプレックスが欧米企業を次々傘下に
中でも大きなニュースとなったのが、17年8月にソニー・ピクチャーズ・テレビジョン・ネットワークスが米国最大の日本アニメ配給会社ファニメーションを約1億5000万ドル(約165億円)で買収したことだ。ソニー・ピクチャーズは米国企業だが、親会社のソニーが日本企業であることは言うまでもない。さらにファニメーションは19年、英国最大の日本アニメ配給会社マンガ・エンタテインメントを子会社化している。
ソニーグループでは、ソニー・ミュージック系のアニプレックスもM&Aを活用した海外事業の拡大に積極的だ。アニプレックスは05年に設立した米国法人アニプレックス・オブ・アメリカを中心に海外で最も成功した日本企業の1つである。15年にフランスの日本アニメ配信会社ワカニムに出資しグループ会社化、またドイツの大手日本アニメ配給会社ペパーミントと共同出資会社ペパーミントアニメを設立している。19年にはオーストラリア最大手の日本アニメ配給会社マッドマン・アニメに出資するなどその勢いは衰えない。
フランスでは09年に早くも小学館・集英社グループが、現地の有力会社KAZEグループを買収した。講談社と大日本印刷は11年、米国で日本書籍を翻訳する出版社ヴァーティカルを傘下にし、KADOKAWAは米出版大手から日本マンガの翻訳出版第2位の事業部門エンプレスを分社化、株式51%を取得して16年にグループ会社化している。ホビー関連でもバンダイナムコグループが18年、北米企業が手掛けるコアファン向けの玩具販売事業「ブルーフィン」を2700万ドル(約29億円)で取得している。日本アニメ・マンガ関連の現地企業で日本資本が入る会社は驚くほど急増した。
日本企業によるM&Aは、規模で言えばマーベルやルーカス、21世紀フォックスを飲み込むディズニーやAT&Tとタイムワーナーの経営統合に比べればはるかに小さい。ただし海外における日本アニメ・マンガは、元が小さな市場だけにそのインパクトは大きい。
とりわけ目立つのはマーケットの占有率である。典型的なのは北米の日本マンガ翻訳出版業界だろう。小学館・集英社グループのVIZメディア、講談社USA、そしてエンプレスと上位企業は全て日系出版社が占めることになった。市場の占有率は軽く9割を超える。15年前、北米で日本マンガブームと言われた時代は、逆に日系企業のシェアは2割にも満たなかったはずだ。
日本企業以外でも、日本アニメ専門の動画配信クランチロールが、M&Aが繰り返されるなか18年にハリウッドメジャーの一角ワーナー・メディアグループの傘下に入っている。日本アニメ・マンガ業界の主要企業は今回のセンタイも含めて、ほとんどが日本企業とハリウッドメジャーの傘下に入った。
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