なぜデンマークは、消費税が25%でも軽減税率を導入しないのか:専門家のイロメガネ(6/8 ページ)
軽減税率は、一見すると正しそうな制度に見えるが、この制度が原因で、小売業界と飲食業界は混乱の極みにある。軽減税率は徴税コストが高く、線引きに手間がかかり、脱法行為を生み出しかねず、高所得者に有利。だから軽減税率よりも別の手段で還元した方が好ましい。デンマークはこのように軽減税率そのものを完全に否定している。
「C効率性」の高い日本
消費税や付加価値税(消費税とほぼ同じ仕組み)の効率を測る際に、C効率性という指標がある。本来得られる消費税のうち、実際にどれだけ税収として計上されているか? という指標だ。これは軽減税率の対象が広いほど、そして軽減税率が低いほど効率が悪化、つまり税収が減る。あらゆる取引に例外なく消費税が適用されて、軽減税率もなければ数字は100%となる。この状況に最も近い国は消費税が15%のニュージーランドだ。
日本は軽減税率がなく、多くの取引に消費税が課されているため欧州各国と比べてC効率性は比較的高かった。身近な所で消費税のかからない取引は、賃貸で住居を借りるケースだ(法人が借りる場合や、個人でも購入する場合は課税される)。
しかし今後軽減税率が適用されればC効率性は下がる。8%と10%程度の差ならば大きな影響はないが、消費税は15%まで上がったけど食品は8%のまま、といった状況になればEUと同じように効率は大きく悪化する。
現在は消費税1%あたり2兆円といわれている税収も、軽減税率が強化されるほど低下していく。そして軽減税率のバカらしさを多くの人が理解して反対しない限り、そうなる可能性は極めて高い。シンクタンクの報告書でも以下のように書かれている。
諸外国の経験からは、国民に一旦軽減税率というアメを与えると、それを厳しい方向にもっていくことが政治的に困難であることがわかっており、日本も今後欧州諸国のように課税ベースが縮小していく可能性がある。とりわけ、今回の消費税の軽減税率導入を巡るてん末は、消費税のC効率性がその時々の政治情勢の影響を強く受けて推移することを示唆するものである。
消費税の軽減税率とC効率性 みずほインサイト みずほ総合研究所 2016/03/16
欧州各国は、標準税率と軽減税率の差が非常に大きいためC効率性が低く、税収を確保するには消費税を過剰に引き上げなければならない。そしてみずほ総研の資料では「再分配機能は個人の事情を斟酌(しんしゃく)することができる個人所得税に譲り、消費税はできるだけ効率的に税収を確保することが求められる」とある。
つまりデンマークのように軽減税率は導入せず消費税は一律に、低所得者対策は所得をベースに社会保障給付の形で行う……。繰り返しになるが、このように「課税」と「増税対策」は切り分けることが合理的で、消費税の範囲内だけでつじつまを合わせるように増税対策を行うべきではない、ということになる。
※C効率性に関してかなり簡略化して説明した。詳細は引用した資料等を参考にされたい。
関連記事
- 10月から始まるキャッシュレス還元、どこで使えてどこが何%? Zaimが「キャッシュレス還元マップ」公開
政府が行うキャッシュレス還元が、10月から始まる。ただし、利用できる店舗、できない店舗が入り乱れ、フランチャイズでは還元率も異なる。経産省が公開した一覧は、3600ページにおよぶPDFだ。Zaimは、店舗の検索が行える「キャッシュレス還元マップ」を公開した。 - なぜアコムは、いまだに過払い金問題で消耗しているのか?
一見昔話のようにも思う過払い金問題。しかし、現在も消費者金融各社は過払い金返還に苦しんでいる。特にアコムは当初の想定どおりに引当金が減っていない。なぜ過払い金の正確な返還額が計算できないのか。そこには、過払い金の返還請求を遅らせると、そこに利息がついてくるなどの制度的な理由があった。 - 麻生氏「年金受給記憶ない」発言が物議 共産党・小池氏のでたらめな批判内容
老後資金は2000万円不足する……問題の議論の過程で、年金に関する勘違いを助長する話が出ている。日本共産党の小池昇氏のツイートを見ると、同氏も年金を理解していない。小池氏の勘違いは社会保障制度の誤解を招く可能性がある。 - キャッシュレス決済市場は5年後、規模1.5倍に 矢野経済研究所
矢野経済研究所の予測によると、2018年度の国内キャッシュレス決済市場規模は約82兆円に達し、19年度は約89兆円を超え、5年後には126兆円に。また18年度のQRコード決済は1500億円規模だが、23年には約2兆円に拡大すると予測している。 - 庶民と金持ちの格差広がる 消費税増税のポイントは景気対策ではない!
2019年10月に消費税が10%に引き上げされる。これがなぜ景気の落ち込みにつながるか? 増税すれば消費者の財布から消費の原資を奪うのは当然だが、最大の理由は消費税の所得逆進性にあるのだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.