世界初の乗りもの「DMV」 四国の小さな町は“新しい波”に乗れるか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/6 ページ)
徳島県が2020年度、世界初のDMV(デュアル・モード・ビークル)による定期営業運行を始める。その舞台は阿佐海岸鉄道だ。沿線にはサーフィンで有名な海岸などもあり、観光の魅力もある。DMVが新たな観光資源になることを期待したい。
このルートのうち、牟岐から後免(ごめん)までは鉄道で結ばれる予定だった。それが「阿佐線」だ。このスケールなら納得できる。しかし、阿佐線は牟岐〜海部間が開業した後、建設中止となってしまう。1980年に成立した国鉄再建法によって、開業しても赤字になる見込みの路線は作らないと決まったからだ。それでは着工された区間がもったいない、という話になり、高知側の後免〜奈半利間は土佐くろしお鉄道、徳島側の海部〜甲浦間は阿佐海岸鉄道という第三セクターをそれぞれ設立して工事を続行し開業した。
DMV運行の舞台は徳島側の阿佐海岸鉄道である。JR牟岐線の末端であり、距離も短く、何しろ赤字必至と国に見放された路線だから、一度も黒字になったことがない。年間およそ5000万円の経常損失があり、設立に参加した自治体が補助金を投入し、意地で維持しているようなものだ。少子化に伴い乗客数も減り、公金投入を疑問視する市民も多いだろう。
2011年から徳島県を中心にDMVを検討
そんな阿佐海岸鉄道にとって、起死回生の手段がDMVだ。マイクロバスに鉄道車輪を追加し、線路も道路も走行できるバスである。JR北海道がローカル線のコスト削減車両として開発したものの実現に至らなかった。その後、各地の赤字ローカル鉄道が関心を示したけれど、車両コスト以上に設備投資が必要となるうえに、鉄道車両より定員が少ないため実用面に難ありで、採用に至らなかった。それを徳島県は真剣にやると決めた。
ここまでの経緯は、過去に3回にわたって紹介した。
- ローカル線の救世主になるのか――道路と線路を走るDMVの課題と未来(2013年9月)全国の導入検討事例を紹介
- 「DMV」計画実現へ、徳島県はホンキだ(2017年1月)徳島県知事が定例記者会見でDMV予算化を表明
- 徳島県のDMV導入は「おもしろい」で突っ走れ!!(2017年12月)
徳島県は2011年から阿佐海岸鉄道阿佐東線のDMV導入を検討し、同年と翌年に計2回の実証運行を実施した。本格導入に向けて16年に第1回阿佐東線DMV導入協議会を開催。17年2月の第2回協議会において、東京五輪でインバウンド需要が旺盛な20年を運行開始目標とした。また、DMVのモードチェンジ駅を甲浦駅とJR牟岐線の阿波海南駅とし、海部〜阿波海南間はJR四国から譲受したい考えだ。
関連記事
- 徳島県のDMV導入は「おもしろい」で突っ走れ!!
JR北海道が開発し実用化できず、あまたのローカル鉄道が手を伸ばして撤退したDMV(デュアル・モード・ビークル)を、徳島県が実用化する。しかし現地に行ってみると「3年後に実現したい」という割には盛り上がっていない。 - がっかりだった自動運転バスが新たに示した“3つの答え”
小田急電鉄などが手掛ける自動運転バスの2回目の実証実験が行われた。1年前の前回はがっかりしたが、今回は課題に対する現実的な解決策を提示してくれた。大きなポイントは3つ。「道路設備との連携」「遠隔操作」「車掌乗務」だ。 - 着工できないリニア 建設許可を出さない静岡県の「正義」
リニア中央新幹線の2027年開業を目指し、JR東海は建設工事を進めている。しかし、静岡県が「待った」をかけた形になっている。これまでの経緯や静岡県の意見書を見ると、リニアに反対しているわけではない。経済問題ではなく「環境問題」だ。 - こじれる長崎新幹線、実は佐賀県の“言い分”が正しい
佐賀県は新幹線の整備を求めていない。佐賀県知事の発言は衝撃的だった。費用対効果、事業費負担の問題がクローズアップされてきたが、これまでの経緯を振り返ると、佐賀県の主張にもうなずける。協議をやり直し、合意の上で新幹線を建設してほしい。 - 東急がJR北海道に“異例”進出! 全国127の観光列車を「分布図」にすると……
JR北海道が東急電鉄の豪華観光列車を運行すると報じられた。“異例”の取り組みがどうなるか注目だ。「観光列車大国」の日本には127もの観光列車があるが、まだ空白地帯もある。そこに商機があるかもしれない。観光列車の「分布図」を作ってみると……
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.