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ANA社員が「女子高生バレーチーム」の監督に!? 謎の人材育成プログラム「文武両道場」に潜入人気の強制「修羅場」道場に密着【前編】(2/2 ページ)

企業から派遣された受講生が2日間にわたってバレーボールチームを監督として率い、マネジメント能力を高める「文武両道場」という人材育成プログラムがある。全日本空輸(ANA)やそのグループ会社、横河レンタ・リース、日本財団、茨城県などの社員や職員が参加したこのプログラムに密着した。参加企業の狙いはどこにあるのか?

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学生の中にも生まれる「チーム観」

 もちろん、大学生にとっても学びは多い。参加していた成蹊大学1年の黒木風花さんは、こんな話をしてくれた。

 「普段はキャプテンをやるようなタイプじゃないけど、このチームでは下の子しかいないので自分がやるしかないなって。知らない人たちがいきなり集まったのに仲良くなれて、バレーの力を感じました。これから大学でも上級生になっていくので、この経験は役に立つと思います」

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成蹊大学1年の黒木風花さん

 また、別の大学生(2年生)は体育の教員を目指しているといい、「教員目線の勉強になる」と話していた。最年少では高校1年生の参加者もいた。新宿高校の遠藤菜々花さんと田中あり紗さんは「チームが悪い雰囲気になったときにも先輩方は1人1人を見て声を掛けてくれていた。名前を覚えるためにゲームをしたり、チームを盛り上げるために何をすればいいのか教えてくれた」と笑顔で口を揃える。

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新宿高校の遠藤菜々花さんと田中あり紗さん

 このプログラムは、普段の部活動を指揮している指導者にも気付きを与える。これまで自分が行ってきた指導法は果たして正しかったのか。時に選手たちの意外な素顔を目にしながら、よりよい指導のあり方を考えるきっかけになるのだ。

 取材に訪れた際、講師陣が注目している一人の受講生がいた。ANAグループから参加していた山谷宏美さんだ。空港にあるラウンジのオペレーションを統括している立場で、5人の部下を持つ。

 「スポーツをやったことがない」という山谷さんは、プログラム初日、戸惑うことばかりだったという。20歳ほども年齢の離れた大学生や高校生のチームをいきなり預かり、「何もできなくて苦しかった」。単独で監督を任された山谷さんは、バレー未経験であることを引け目に感じていたこともあって、動くに動けず、選手たちの自主性に任せることにした。

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ANAから参加していた山谷宏美さん
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山谷宏美さんは大学生チームの監督を笑顔で務めていた

「委任ではなく放任」 修羅場で鍛えられるリーダーシップ

 ところが、初日の最後に行われたリフレクションの場で、講師陣から厳しい指摘を受ける。

 「『任せていた』と言うけど、それは委任ではなく、放任なのではないか。もし委任していたというのなら、チームの中でどんなことが起きていたかをきちんと把握できていなくてはいけない」

 山谷さんは「自分でも感じていたことをはっきり言われた」と苦笑する。一晩考えたすえ、「バレーを知らなくてもマネジメントできることがある」と思い直した。2日目になると、ノートを片手に試合の様子を見つめながら、ミスの回数などを記録し始めた。

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講師陣から受講生への厳しいフィードバックがなされる「リフレクション」の風景

 「客観的な数字を出してアドバイスをするのは、私でもできるマネジメントの一つなのかなって思ったんです。今日はちょっとコミュニケーションをとれるようにもなりましたし、試合にも勝てた。みんなも昨日より楽しそうですね」

 この経験は、職場に帰ってからも生きそうだ。山谷さんは言った。

 「最初、選手たちに『どう?』って聞いても、いまいち答えが返ってこなくて。それは新入社員に対しても同じなのかなと思います。コミュニケーションをとる時には、漠然とではなく、具体的に。例えば、何時にこういうことが控えているからこれをしておかないといけない、とか。そういう指示の出し方をすることが大切なんだと気づきました」

 松田さんは言う。

 「皆さん、最初は苦労されます。でも、バレーボールがどうこうという問題ではなくて、どうやって強い組織をつくるのか、そのために自分がどんな意思決定をするべきなのかを考えることが、このプログラムの本質。そこをしっかり理解したうえで参加していただければ、効果も大きくなると思います」

 バレーボールというスポーツと職場環境の近似性を生かしたユニークな取り組み。スポーツが持つ「人を育てる力」を、学生の選手だけでなく、企業人にも活用するアイデアは非常に興味深い。

 この2日間の体験が本当に価値あるものになるかどうかは、参加者たちがそれぞれの場所に戻ってからの過ごし方に懸かっている。

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ANA常務の國分裕之さんは参加した社員や職員に対して、真剣な表情で今回のフィードバックをしていた

著者プロフィール

日比野恭三(ひびの きょうぞう)

1981年、宮崎県生まれ。2010年より『Number』編集部の所属となり、同誌の編集および執筆に従事。6年間の在籍を経て2016年、フリーに。野球やボクシングを中心とした各種競技、また部活動やスポーツビジネスを中心的なフィールドとして活動中。近著に『最強部活の作り方 名門26校探訪』(文藝春秋)など。


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