ナイキはなぜ中国に屈したのか 巨大市場を巡る“圧力”の実態:世界を読み解くニュース・サロン(1/4 ページ)
米NBAチームGMが香港デモの支持を表明して騒動になっているが、中国でビジネス展開するスポーツ大手のナイキはダンマリを決め込んでいる。社会的なメッセージを発信してきた同社でさえ、巨大市場を武器にされると口をつぐんでしまう。そこに中国ビジネスの難しさがある。
10月21日、韓国でユニクロのCMが「歴史修正主義」だと批判されたことで、ユニクロがCMを取り下げたことが話題になった。自分たちの気に食わない表現に対する、「歴史問題」を悪用した営業妨害行為に他ならないが、似たようなことは中国も行っている。
米国では最近、中国を刺激したあるツイートが大きな騒動に発展している。
ことの発端は、テキサス州ヒューストンがホームのNBA(全米プロバスケットボール協会)チーム、ヒューストン・ロケッツのダリル・モーリーGMのツイートだった。
10月4日、モーリーは、「Fight for Freedom. Stand with Hong Kong(自由のために戦え。香港を支持する)」とツイートした。香港で3月から続く、政府の締め付けに反対するデモを繰り広げている市民を支持するという意味で、彼はそんな言葉を掲載したのだろう。ただタイミングが悪かった。ちょうど上海では、ロサンゼルス・レイカーズとブルックリン・ネッツによるプレシーズンマッチの準備が進められており、NBAが中国市場でプロモーションを強化していたからだ。
香港の問題は中国にとっても非常にセンシティブで、政府も扱いに苦慮している。モーリーのツイートは中国政府からの反発を受けただけでなく、彼のTwitterアカウントにはすぐに親中国のアカウントから批判コメントなど17万件以上が殺到した。そうしたアカウントの半分は、ほとんどフォロワーなどがいない「フェイク」と思われるものだったという。また、中国国内で予定されていたNBA関連イベントのキャンセルが相次いだ。
この事態を受け、NBAはいったんは謝意を示したが、その後にモーリー支持のメッセージを発表。NBAにとって、中国は40億ドル規模のビジネスを展開しているお得意さまなのだが、NBA側は中国からモーリーをクビにするよう指示を受けたとも暴露した。
どんどん混乱が深まる中、意外にもダンマリを決め込んでいた企業があった。中国で大々的にビジネスをし、NBAやロケッツなどとも近い関係の米スポーツ大手のナイキである。同社は知らん顔どころか、なんと、北京のナイキショップ5店舗から、ヒューストン・ロケッツに関連するグッズを撤去したのである。
ナイキといえばこれまで、米国内でも、人権問題などを扱ったメッセージ性の強い広告を展開するなど、エッジの効いた企業として見る向きがあった。それが、独自路線を貫いているというナイキの企業イメージだったはずだが、今回、人権蹂躙(じゅうりん)と強権統治で知られる中国政府に対して目をつぶった。
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