ナイキはなぜ中国に屈したのか 巨大市場を巡る“圧力”の実態:世界を読み解くニュース・サロン(2/4 ページ)
米NBAチームGMが香港デモの支持を表明して騒動になっているが、中国でビジネス展開するスポーツ大手のナイキはダンマリを決め込んでいる。社会的なメッセージを発信してきた同社でさえ、巨大市場を武器にされると口をつぐんでしまう。そこに中国ビジネスの難しさがある。
ナイキがダンマリを決め込む理由
最近、今回の出来事とは別件でも、中国による外国企業の発言などを締め付ける動きが強まっている。中国は消費者が15億人いる自国の市場へのアクセスを、米企業に対する効果的な「武器」として使っている。その実態は想像以上に深刻なようだ。いったいどんな状況なのか。
ナイキは30年以上前に、今では広く浸透した「Just Do It」という広告キャンペーンを始めた。以降、物議を醸すような、社会性のあるメッセージで話題になってきた。キャンペーン当初から身体障害者やHIVに感染したゲイ・アスリートを起用。1995年には少女たちを登場させて「(スポーツを)やらせてくれるなら――」という、スポーツ界や社会全体における女性の進出についてのメッセージを広告で発信した。その後も、「私は女性。でもそれはスカートを履かなきゃいけないという意味ではない」といったコピーが話題になったこともある。その時代ごとに扱いにくいテーマを使って広告を打ち出し、過激ともいえるメッセージを伝えてきた。
最近でも、NFL(米ナショナル・フットボール・リーグ)のサンフランシスコ・フォーティナイナーズの選手で、2016年に人種差別に対して抗議するために国歌斉唱の際に起立せずに論争を巻き起こしたコリン・キャパニックを広告に起用。キャパニックはその抗議の影響もあって、その後はNFLのチームと契約していない状況が続いていた。そんな中での起用で「全てを犠牲にすることになったとしても、何かを信じろ」というコピーが使われた。
そんなナイキが、中国政府の圧政にあらがい自分たちの権利を求めてデモをしている香港の市民を支持するのではなく、中国におもねったのだから、驚きがないはずがない。米メディアからは「ナイキは国内で男女平等のような問題を訴えながら、国外では人権侵害を無視するのはダブルスタンダードではないか」「中国当局の言うことを聞くことで、弾圧に加担していることになるのではないか」という辛辣なコメントも聞かれた。
それでもナイキはダンマリを決め込んでいる。なぜなら、香港やNBAなどよりも中国を選ぶ真っ当な理由があるからだ。そう、ビジネスが順調すぎるのである。
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