「無駄なことをやり続ける」 喫茶店不況の中、創業55年のレトロ喫茶が人気のわけ:1964年から2020年へ(4/5 ページ)
喫茶店の倒産が相次いでいる。東京商工リサーチによると、2019年1〜8月の期間で倒産した喫茶店は42件。過去20年の中で最多ペースに並ぶ勢いだ。こうした中で、新宿にあるレトロな“純喫茶”が9月、新たな店を西新宿に出店した。店名は「珈琲西武」。新宿三丁目にある1号店は1964年にオープンし、今年で55年目を数えるほどの老舗純喫茶だ。喫茶店チェーンでは、200円台からコーヒーが飲める店も増えている中、珈琲西武のコーヒーは最低でも600円。それでも、平日や休日を問わず入店待ちの行列ができるほどの人気ぶりだという。
2020年のオリンピックを新たなきっかけに
今回2号店を開いたのは、2020年に東京でオリンピックが開催されるからだという。珈琲西武がオープンした1964年は、東京オリンピックが開催された年でもある。これについて、村山氏は「日本が復興で盛り上がり、最も元気があった時代の1つ。そこに東京オリンピックが開催され、当社としても1つの節目を作ることができた」と話す。「2020年に再び東京でオリンピックが開かれることになり、『珈琲西武として新しいことをやってみよう』となり、2号店をオープンした」。提供されるコーヒーカップの裏には「1964」と刻み、ソーサーには「2020」と刻まれている。
同グループは、創業者が1945年に始めた靴の販売や飲食業にルーツを持つ。戦後の復興時代に必要とされた、スマートボールやキャバレーなどの娯楽業を展開し、成長を続けてきた。復興の流れの中、新宿が盛り上がっていた時代に珈琲西武はオープンした。
「オープンした当時は復興が落ち着き始めて、生活をより良くしていくという流れがあった」と村山氏。社会に「復興」という重しがなくなり、「楽しむ」へと人々の関心が移りつつあった時代だという。当時は新宿三丁目周辺に数多くの喫茶店があったというが、今ではその数は大きく減少している。
目まぐるしく変化を遂げる街の中で、珈琲西武はどのように変化をしてきたのか。村山氏に聞いたところ、「商品やサービス自体は昔から大きく変わってない。むしろ変わったのは外部環境の方だ」と話す。「その時代のムーブメントに合わせて店作りをしていたのでは、時代が変わったらダメになってしまう。『これが良い』と思ったものを突き通せば、成功する可能性も高まるはず」。
例えばメニュー1つとってもそうだ。珈琲西武の看板メニューともいえる自家製プリンのプリン・ア・ラ・モードは、オープン当時には「質より量」(村山氏)という世相に支持され、人気を博した。1つの皿の中にプリンや果物が所狭しと並びボリューム感のある商品は、今でも変わらず存在する。しかし、時代を経ることで、単に「量」ではなく「質」も評価されるようになった。また、見栄えもすることから、最近では若い女性のお客も増えてきているという。
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