消費税は弱者に厳しいというウソ 〜逆進性という勘違い〜:専門家のイロメガネ(4/8 ページ)
消費税は弱者に厳しい、逆進性があるという勘違いに基づく指摘は、結果的に複雑怪奇で史上最悪の軽減税率の導入にもつながった。しかし、消費税に限らず税金はどのように集めるか、そしてどのように使うか、負担と給付をセットで考える必要がある。そして、負担と給付の両面で発生する「二重の累進性」が高所得者には働く。これは消費税の逆進性を打ち消して余りあるほどに大きい。
給付の累進性
保育料なんて数年の短い期間じゃないか、と思われるかもしれないが、給付の段階で累進性が働く公的な制度を列挙してみると、以下の通り保育料以外にも多数ある。
- 保育料
- 医療費
- 遺族年金
- 住宅ローン減税
- 奨学金
- 児童手当
- 育休・産休手当
医療費は通常3割負担だが、入院等で負担がかさんだ際は極端に負担が増えないように上限が設けられている。これを高額療養費制度という。
上限は収入に応じて5段階に分かれているが、一般的な「区分ウ」※のケースは以下の計算式の通りだ。
- 8万100円+(総医療費−26万7000円) ✕ 1%
医療費が約8万円を超えると、あとはどんなに医療費が増えても実際の負担はほとんど変わらない。3割負担でもなお100万円の医療費が発生した場合ならば、8万100円+7330円でその月の支払額は8万7430円となる。
しかし、最も収入が多い「区分ア」※の計算式は以下の通りだ。
- 25万2600円+(総医療費※1−84万2000円) ✕ 1%
このケースで100万円の治療費が掛かった場合、25万2600円+1580円=25万4180円と、ウのケースと比べて3倍も多い。
収入が多い人は税金も社会保険料も負担額は多く、所得税は税率も高まる。高所得者にとっては「多額の税金や保険料を納めているにも関わらず公的サービスの負担まで重い」と、常識的に考えて働くことがバカらしくなる状況だ。踏んだり蹴ったりとはまさにこのことだと言わざるを得ない。
※
区分ウ(標準報酬月額28万円〜50万円)(報酬月額27万円以上〜51万5千円未満)
区分ア(標準報酬月額83万円以上)(報酬月額81万円以上)
関連記事
- なぜデンマークは、消費税が25%でも軽減税率を導入しないのか
軽減税率は、一見すると正しそうな制度に見えるが、この制度が原因で、小売業界と飲食業界は混乱の極みにある。軽減税率は徴税コストが高く、線引きに手間がかかり、脱法行為を生み出しかねず、高所得者に有利。だから軽減税率よりも別の手段で還元した方が好ましい。デンマークはこのように軽減税率そのものを完全に否定している。 - 麻生氏「年金受給記憶ない」発言が物議 共産党・小池氏のでたらめな批判内容
老後資金は2000万円不足する……問題の議論の過程で、年金に関する勘違いを助長する話が出ている。日本共産党の小池昇氏のツイートを見ると、同氏も年金を理解していない。小池氏の勘違いは社会保障制度の誤解を招く可能性がある。 - 【前編】食べログはなぜ何年も炎上し続けるのか?
たびたび炎上する食べログ。先日も、Twitter投稿を元に有料加盟とレビューの点数操作をめぐる疑惑が話題になっている。炎上が続く根本の原因としては、一番の理由は広告料の存在だ。口コミサイトを名乗りながら広告を売るというは矛盾が内包されている。 - なぜアコムは、いまだに過払い金問題で消耗しているのか?
一見昔話のようにも思う過払い金問題。しかし、現在も消費者金融各社は過払い金返還に苦しんでいる。特にアコムは当初の想定どおりに引当金が減っていない。なぜ過払い金の正確な返還額が計算できないのか。そこには、過払い金の返還請求を遅らせると、そこに利息がついてくるなどの制度的な理由があった。 - iDeCoの改正で逆に格差は拡大する?
私的年金である個人型の確定拠出年金、iDeCoに全ての会社員が加入できるように改正されると報じられました。iDeCoには大きな節税メリットがあるため、一見、会社員にとっては朗報と思えますが、いくつか落とし穴があることには注意が必要です。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.