消費税は弱者に厳しいというウソ 〜逆進性という勘違い〜:専門家のイロメガネ(7/8 ページ)
消費税は弱者に厳しい、逆進性があるという勘違いに基づく指摘は、結果的に複雑怪奇で史上最悪の軽減税率の導入にもつながった。しかし、消費税に限らず税金はどのように集めるか、そしてどのように使うか、負担と給付をセットで考える必要がある。そして、負担と給付の両面で発生する「二重の累進性」が高所得者には働く。これは消費税の逆進性を打ち消して余りあるほどに大きい。
「金持ちに課税をしろ」という勘違い
法人税の引き上げや「金持ち」への課税は、もうかってるやつらには罰を与えろという話に等しい。そして、完全に誤解されていることがある。すでに規模が大きくなった企業や資産家になった「本当のお金持ち」は、法人所得や個人所得に課税が強化されればかえってその立場は安泰になるのだ。
新たに勃興したベンチャーも老舗企業も、そして資産家もこれからたくさん稼いで資産家になりうる若者も、同じ稼ぎには同じ税率が適用されるということは、後から来た新興企業と若者は税率が高いほど追い付き追い越すことが難しくなるからだ。
個人でいえば、初めて1000万円を稼いだ人も、20年間連続で1000万円を稼いだ人も、税率は同じだ。これは企業にも当てはまる。税率が高いほど手元に残るお金は減り、先に財産を築いた個人や、地位を築いた企業に勝負を仕掛けるだけの資金が減ってしまう。つまり順位、ヒエラルキー、地位は税率が高いほど入れ替わりが難しくなる。
この説明が分かりにくい人は、税率が100%で稼ぎを全て税金として取られる状況を考えてみれば分かる。新興企業も若者も既存の大企業・お金持ちと入れ替わる事は一切不可能になる。所得にかかる税率が高いほどこの状況に近づく。
消費税の引き上げは経済成長を妨げない
資産の高低と所得の高低をごっちゃにすると、金持ちに課税をしろという勘違いが生まれる。実際には資産と所得、それぞれの高低を組み合わせれば2×2=4つの分類があるにも関わらず、資産も所得も低い人を除けば、残り3者は現在全ていっしょくたに「金持ち」扱いされている。
所得は高くても資産がない人、所得は低くても資産がある人、そして所得も資産も多い人と、3者3様に適切な課税がなされなければ、入れ替わりがなくなって階層の固定につながる。
企業を見ても、売上や時価総額で上位の企業は昔からほとんど入れ替わりがない。これは日本の活力を大きく削いでいる。時価総額上位100位までの企業を見ても、新しく興った企業はソフトバンクとファーストリテイリング、そして大きく離れて楽天、目立つのはこの三社程度だ。税率が高いほど投資に回される資金は減り、新しい企業の成長は阻害され、そして経済のダイナミズムは殺される。いい加減この程度の認識は共有されるべきだ。
広く薄く課税される消費税は、入れ替わりを阻害する要因となりにくい。世界でトップクラスに豊かな北欧諸国は、デンマークの25%をはじめ消費税も世界でトップクラスに高い。短期的に見れば景気の上下があっても、長期的に見れば高い消費税が経済成長を阻害しないことを明確に証明している。
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